第三話 壁と報告



 ──あの造られたモノが生きているのが嫌で嫌で仕方がない。
   だから、ボクはいつかあの子を殺します。


 イツキによる、紛うことなき宣戦布告。

 彼の過去は詳しくは知らない。
 知らないが、恐らく過去と絡んでいるのだろう。
 だから同じ境遇の筈のリュイを殺すと言ったのだろう。

 ……その理由が理解不能過ぎて、オレは今、頭を抱えていた。


 思わず固まっているうちにイツキは居なくなってたし!

 ユーリスはこのやべぇ話聞いて無さそうだし…!
 ど、どうしたらいいんだオレは──!

「可能なら、オレと同じ神とか精霊とかそういう奴と相談したい…!」

「ここにいるが?」

 思わず声に出ていたのだろうか、怪訝そうにルナリーフが顔を覗き込んで来た。

 ……そう言えばここに精霊いたわ。

「るっ…ルナリーフ、ちょっと相談が…!」

「は?何なの急に……」

 別にいいけど、と返事を貰った瞬間。
 精霊の手を取り、ユーリスに「ちょっと借りるぞ!」と一言声を掛けて神域に連れ込んだ。

「なんだなんだ?幼女誘拐か?」

「違うわ!てか、人聞きの悪い事言うなァ!」

 オレが言い返すとルナリーフは冗談だとクスクス笑う。

「で、相談ってなんだ。
 こんなところに連れ込むという事は…
 ユーリスやリュイには知られたくないんだろ?」

「…察しが良くて助かる。実は……──」

 先程イツキに言われた宣戦布告の事を詳しく話す。
 さすがに予想外だったのか、ルナリーフは目を丸くしていた。

「イツキがそんな事を…?
 ……しかもユーリス絡みではなく…?」

「ああ。
 ……ってなんだよユーリス絡みって」

「アイツ、滅茶苦茶ユーリスに対して執着しているというかなんというか…。
 てっきり、そっちで目を付けられたのかと思ったぞ。」

 要するにイツキはユーリスに好意を寄せているという事か?と言えば「そう言う事でいい」と返ってきた。
 …成る程、そっちでも可能性があるのか。覚えておこう。

「…イツキが人体実験被害者であるのは私も知ってるし、ユーリスと一緒に保護当時にも出会ってる。
 君の言う通り、アイツもリュイと同じ境遇だった可能性は大いにあり得る。」

 なのに、リュイが生きているのが嫌で仕方がないと。
 
 あの青年はそう言い切って、宣戦布告してきたのだ。

 精霊も理解できないのか、一緒にうーんと唸る。

「何かが気に食わなかったのは間違いないだろう。
 だが、一体何が殺すレベルにまで飛躍するんだ…?」

「そこも気になるが、どうやってリュイを守るかも大事だよな…。
 イツキが言うには、ユーリスの家で血生臭い事はしたくない、とか言ってたな…」

「うぅむ…。となるとユーリスの家が安地…と言いたいところだが
 アイツは今日みたいに突然やって来る事が多いぞ。もし連れ出されたら一巻の終わりだ」

 ルナリーフの言う通りだ。
 何かしらの言い訳を通して連れ出されたら終わる。
 安全のようで安全ではない。

「…神域に閉じ込める、のは良くないよなぁ…。」

「ナチュラルに神話的物騒な発想やめろ。
 それをやると最終的に別の何かに変わる可能性があるからな…」

「マジで神話的に物騒なやつだなコレ!
 ……でも最終手段としてはあり…としておくか」

 そう言うと「正気かお前…」みたいな目で見られた。
 ……本当に最終手段だからすぐにはやらないぞ、さすがに。

 
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