第二話 魔導師と精霊


「……本当に後手後手に回ってるんだな」

「うぅ…返す言葉もない…」

 がっくり、とリディーナが肩を落とす。
 隣にいたルナリーフもはぁ、と溜め息を吐いた。

「施設同士の繋がりも恐らく先に見つけてるのだろうね。
 ソイツの所為で毎回こう……騎士団が来る頃にはもう死体と瓦礫の山しかない。本当に常に後手だけの状態が続いてた。」

「しかも、人体実験被害者の方までご丁寧に殺してるので保護もなーんも出来ないんス……。だから出来るのは検死と埋葬くらいで…」

 再び騎士と精霊が溜め息を吐く。
 ……本当に参っているようだ。

 国からしたら信用問題にもなるだろうから余計にそうなるのか。
 …まあ内容が内容だから公表はしてないかもしれんが、それでも騎士団からしたら頭の痛い話だろう。
 
 そう言えば、オレが最初に来た時は「まだ」研究員も施設もあったよな…。
 次に来た時にはもう、騎士団の言う「いつもの状態」になっていたが。

「…ん?という事はオレに聞いてるのって」

「結果的にはいつもの後手かもしれないっスけど……。
 ルナリーフさんから聞いた限り、恐らく竜胆様が見たのは、襲撃直前の状態かもしれないっス。なので…可能な限り、思い出して教えてくれませんかッ!」

 バッとリディーナが頭を勢いよく下げる。
 まるで藁にも縋る思い、という様だ。いや実際そういう状況に来ているのかもしれないが…。
 
「そ、そう来たか……。」

 あの時結構衝動的に動いていらからなぁ…。
 しかも、たまたま出た場所が人体実験施設のある森だった、という文字通りの「偶然」だったし。
 リュイと一緒に神域に逃げたの割と一瞬。

 ……これと言って思い出せる事は──

(いや、もう少し、もう少し思い返してみるか…)

 目を閉じて、あの時の「影」を思い出す。
 ──「影」を再現をする。

 影はオレに取って身体の一部の様なモノ。それならば

(せめてあの時、何人いたのかくらいはわかるハズだ)

 あの森に居たのは何人だ?

 リュイを連れていた研究員が数人
 ──もっと正確な人数を

 ──4つの影が浮かぶ。小さな影を連れて。

「4つ、小さな影。研究員が4人、小さな影は多分リュイで──」

 ──こちらを窺う、影が幾つか。

「一人……ではない、な。
 二人以上……?ダメだ、ハッキリしない」

 一つはハッキリと分かる。
 一つはぼやけて数の判別が付かず、もう一つは精霊のような気配でぼんやりしている。

「施設にはそうだな…こっちはわかる、3人。
 それと……なんだコレ、よくわからないモノが2つ…それと小さい影が1つ」

 ……これくらいだろうか、と影の再現を終えて目を開く。
 目の前にはせっせとメモを取るリディーナと、目を丸くしているルナリーフの姿があった。

「…今のでもいいのか?」

「も、勿論っす!じゃあ今から準備して現場に行って調査するっス!
 結果はユーリスさんの家に行って言えばいいっスかね?」

「え、ええ…。いつも通りでお願いするよ、リディ。」

 「ご協力感謝するっス!」と慌ただしく一礼をすると騎士団の建物に戻っていく。
 …取り残されたオレと精霊は顔を見合わせた。

「……驚いた、人数把握が出来るのはお手柄よ、若造」

「マジか」

「ええ。…そりゃあもう酷いくらいにミンチにされてるから人数把握もなんもない状態だったから。」

「そんなに酷くやられてるのかよ…」

 思わずあの光景を思い出してしまいうげぇ…となる。
 …暫く肉料理は食えそうにないかもしれない。

「場所はもう教えておいたから、あとは結果待ちかぁ。
 …ホラ、ユーリスの所へ帰るから神域使わせなさい」

(…オレ、一応アンタよりは上の存在の筈なんだけどなァ)

 などと思ったが口にすれば間違いなく「でもお前新米神様でしょ」とぐうの音も出ない正論が返ってくるので直前で留める。

 ここに来た時と同じ様に神域に入り、再びユーリスの居る家の前まで戻った。
 
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