第二話 魔導師と精霊
再び神域に入り、ルナリーフの案内で目的の場所につく。
今度は城壁の近く、というような場所だった。何度もルナリーフが口にしていた国の城壁なのだろう。…結構立派だ。
近くには衛兵の詰所らしき建物があり、精霊が「君はここで待ってるといい」と言ってその建物の中に向かって入っていく。
ルナリーフが戻って来るまでの間、不審者などと思われないようにと、近くの木の影に溶け込む。影の中から、周囲を探る。
何度も聞いた…国、という言葉が妙に気になった。城壁もあり、事件への対応も考えれば、結構大きい国なのだろう。
しかしどんな国なのか、全く分からない。
(ちゃんとした国だといいんだが)
不意に思い出す前世の“私”の記憶。
アレは酷かった。
文字通り使い潰されたからな。
(もしアレと同じような国だったらどうしたモンか……)
もやもやと一人考えていると、建物のドアが開いた。
ルナリーフが戻って来たのか、と思ってそちらを見れば、見知らぬ騎士も一緒にいた。
青い髪を一つにまとめた騎士の少女…だろうか、何処か楽しそうに精霊の少女と会話している。
そして、ルナリーフがこちらを見た。
「おーい、出てこい若造。コイツは大丈夫だから」
「………」
はぁ、と溜め息が出た。
コイツ、もしかしなくてもオレの事バラしたな?
どうしたものか、と考えながら影から身を起こす。
騎士の少女は「おわ」と小さく声を上げて目を丸くした。
「……なんでオレの事呼んだんだ、ルナリーフ」
「なんでってそりゃ君が第一発見者だからだろ?」
でしょ?と精霊が騎士の少女に聞くと「うんうん」と頷き返された。
「あー……確かにそうなる…のか?」
「そうっス!一応ルナリーフさんから、竜胆様の話はざっくり聞いたので!」
あの精霊、一体どういう説明をこの騎士にしたのか……というオレの不安をよそに、にこやかに騎士は自己紹介を始めた。
「あ、アタシはリディーナ・ラステイク!シュトライン騎士団、セオルド王子の直属の部下っス!」
「オレは御影竜胆。影を司る神……と言っても神様新人みたいな者だ。…正直、変に期待されても困るからそこは配慮して欲しい。」
「ははぁ……成る程、だからルナリーフさんは若造と…」
ふむふむ、と騎士──リディーナは頷く。
……やっぱ何だかロクな紹介のされ方してない気がするなコレ。
「っとと、そんな事より本題っス。
今シュトライン国では国から隠れて人体実験を行ってる輩を見つける、或いは捕まえる為の調査を行ってるっス。
…その、竜胆様もその施設を見たってルナリーフさんから聞いたんスけど……」
「まあ、見たという事にはなる、か。
……ところで、そんなにこの国に人体実験蔓延ってるのか…?」
思わずそう訊くと、リディーナは肩を落とす。
「普通に考えて、人体実験なんて倫理的にどうかと思うっス。というかこの国でも普通に違法っすよ。
なーのに、ここ数年…何故かそう言う施設が見つかるんス…。」
しかも、ほぼ高確率でもぬけの殻の施設か、オレ達が見た様な惨劇の後の状態の2択という状態で見つかるらしい。
「…これだけ聞くと、国がまるで無能みたいに聞こえるかもしれないのは否定が出来ないっす。
でも、あっちもあっちで…上手い事隠れてるし、探すのも一苦労なんスよ……。」
「なんなら何者かに先回りされてる可能性があるのも調査が余計に遅れている原因の一つだったりするのよね。」
先回りというのは言わずもがな、例の状態にしている者の事だった。
余程恨みでもあるのか、と言わんばかりに壊されている為、別の施設との繋がりの証拠等も潰されている事が多く、常に先を越され続けているらしい。