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第二話 魔導師と精霊

 ◇

 いっぱい菓子を食べて満足したのだろう、リュイはうとうとし始める。見かねたユーリスがソファに運び、薄い毛布をリュイに掛けた。

「なんか、すまないな…」

「ううん。大丈夫よ。…それにしても、随分変わった子ね…」

 さらりとリュイの頭をなでる。すっかりリュイは夢の世界にいるようで、そのくらいでは起きる様子はない。

「…実は」

 リュイを見つけた経緯をユーリスに話す。すると、彼女は「やっぱり…」と呟いた。

「やっぱり…?」

「いえ、その…。さっきクッキーをみて『苦い』って聞いてきたから…。私の知り合いの人もね、昔そういう実験施設にいたことがあるそうなの。その時、お菓子に薬を混ぜていたらしくてね…。」

「だから、『苦い』って聞いたのか…」

 恐らくそうなんでしょうね、とユーリスが表情を曇らせながら頷く。
 …菓子に薬を混ぜる。その薬の量次第では誤魔化せるかもしれないが…リュイやユーリスの知り合いが言うように「苦い」というレベルということは…余程の量の薬が入っていたのだろう。

「それにしても、まさかこの子もそういう…経験をしていたなんてね…」

「ああ。…でも本当に偶然なんだ。あのままオレがあの場所に出なかったら……この子はどうなってたんだろうって想像すると…ゾッとする」

 きっと出会わなければこんな感情は抱かないのだろう。
 ……否、そうでなくても…そういう話を聞いただけで、オレは「私」だった頃を思い出して、悔やむのだろう。

「……ねえ、その場所ってどこなの?」

 そう聞いてきたのはルナリーフだった。
 改めて場所は何処だったのだろう、と思うが、今のオレには些細なことだ。

「…少し待っててくれ」

 一度ユーリスの家を出て、適当な木の影を探す。そうしてそこにしゃがみ込み、影に手を付ける。

「影は我が神域の一部、身体の一部──《影視》」

 集中するように目を閉じ、魔力を影に流し込む。

 頭の中には影から見た周りの景色。見覚えのある、リュイと出会った場所を探す。

(ここから北東の……少し、いや二つ先の森の中か)

 見覚えのある場所が視える。
 ここだ、と思うと同時に違和感を覚える。

「……? 建物が…ない、壊れてる…?」

 一体どういうことだろう。…でも一応、場所はわかった。

「どう、若造」

 振り返るとルナリーフが立っていた。

「…場所はわかった。ここから北東に行った二つ先の森だ」

 場所を言うと、ルナリーフは少し考え込む。

「…その辺りか。まだ国が見てない所か…。しかし行こうと思ったけど、意外と遠いな」

「一応、オレの神域から通ればそこまで時間はかからないぞ。ただ……」

「ああ……若造故にまだ安定してないというのだろう?」

 ニヤリ、と笑いながらルナリーフが言う。…痛い所をと突いてくるな、この精霊は……。
 でも確かにその通りだ。まだオレの力は安定していない。ユーリス達と出会ったのも、あの場所に出たからという偶然だし…。

「まあ、私が補助をすれば少しは安定するんじゃないのかな?」

「…だといいが。」

 苦笑しながら答えれば、ルナリーフは「しっかりしろよ、若造!」といってオレの背中をバシンと叩いた。

 
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