第二話 魔導師と精霊


 リュイの手を引き、夜の森の中を歩いていく。しばらくすると、光で出来た扉が目の前に現れた。物珍しげにリュイはそれを見詰めている。

 どうやらここが――神域と現世の境界らしい。扉が現れる、ということはそういうことだ。
 ただ、オレがまだ神として未熟な所為か、扉の向こうは濃い靄がかかってよく見えない。…他の神々連中はそれが見えるらしく、扉を開けた先の場所がわかるらしい。

 …さっきの連中がいませんように、と祈りながら扉に触れる。扉は音もなく開き、強い光を放った。



 次に目を開けると、木漏れ日の差し込む森の中だった。

 即座に周囲の気配を探るが、これといった気配はない。…どうやら、安全な所(?)には出られたらしい。

「あれ…?明るい…」

「そりゃそうさ。あの神域は基本的に夜だからな。現世が昼間でもあちらは夜のままだ」

「成る程…」

 リュイが木々を見上げながら言う。…しかし、また森の中ときたか。
 このまま出られない、とかいうのは流石にマズイ。せめて何処か道に出られればいいのだが…。

 参ったな…と思っていると、不意に知っている気配を感じた。
 この気配は…精霊…?

 慌てて周囲を見渡す。リュイが心配そうにオレを見ている視線を感じながら、さらに気を研ぎ澄ます。

『…やれやれ、そんなに殺気を出さなくたっていいじゃないか』

「っ!?」

 耳からではなく、頭の中に少女らしい声が響く。…テレパシーか。何処だ、と思わず身構えると、『そんなに警戒しなくてもいいじゃない』とクスクス笑う声が頭に響いた。

『なら、何処にいる!』

 このまま声を上げてもリュイを怯えさせるだろうと思い、オレも相手に念で言葉を返す。
 すると、声の主は『わかったよ』と渋々というように返って来た。

 直後、背後の方からサクッと草を踏む音が耳に入る。

 振り返ると、茶髪の女性と金髪の少女が立っていた。

「…お前か、さっきオレに話しかけてきたのは」

 金髪の少女の方に向かってオレはそう言うと、少女は肩をすくめながら笑みを浮かべた。

「ご名答。さすが、同郷ファイニアの神様は違うわね」

 金髪で紅い瞳の少女――否、精霊はオレの事をじっと見つめる。

「ふうん、アナタどれくらい“生きてる”の?」

「……“影人”として5000年。神としては最近みたいなもんさ」

「つまり、ほとんど生まれたてなのね、成る程。だから、やたら警戒してたワケ?まだまだ若造ねぇ」

 クスクスと少女は笑う。が、残念ながら言い返せない。悔しいが、こればかりはどうしようもない事実。

「…ああ、否定はしないよ」

「おや、意外と素直なんだね。…それで、名前は?」

「竜胆。…御影竜胆だ」
 
「ふうん…あの青い花の名前と同じなんだ。…私は狂月の精霊、ルナリーフ。そして彼女が契約者のユーリス」

 そう言ってルナリーフはずっと傍らにいた女性を見上げた。

「はぁ…やっと私の番?なんか色々凄い話を聞いたような…。まあいいわ、私はユーリス・ミルファウスト。ルナリーフが言ってたように、彼女と契約した魔導師よ。よろしくね、影の神様」

「様はいらない…。なんか慣れないし、普通に竜胆でいいよ」

「そう?ならそう呼ばせて頂くわ。それで…その子は?」

 ユーリスがオレの後ろに隠れてしまったリュイを見ながら聞いてきた。
 
「リュイだ。」

 大丈夫そうだから挨拶を、と促すと少しだけ顔を出して小さく会釈したと思えばすぐにオレの後ろに隠れてしまった。

 
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