第二話 魔導師と精霊
ノインが泣き止むまでしばらく神域に留まっていた。
しばらくして、落ち着いたのか、ノインはオレのコートの端をギュッと握って来た。
「もう、大丈夫、です」
「ん、そうか」
「…はい、神様」
神様、と呼ばれ、やっぱり違和感しかない。…最近なったばかり、というのもあるが、なんかなぁ……。
「うーん…普通にオレの名前で呼んでもいいぞ。というか、そうして欲しい」
「え…?」
「
「り、リンドウ…竜胆…様?」
「…様はいらない」
「えぇ!?で、でも…」
オレがそういうとノインはあたふたしだす。…まぁ、普通はそういう反応だよなぁ…。
でもやっぱり、自分が神とか様付けされるのは本当に慣れない。
「……竜胆、でいいんですよね…?」
「うん」
「…それと、私の名前なんですけど…」
実は、ないんです。と言われた時は言葉が出なかった。
しかし冷静になって考えてみれば、ある意味当然かもしれない。
まるで実験体の様にこの子は扱われていた。そして事実、この子は何らかの被検体ということがわかっている。
そう考えると、まともな名前が与えられているとは思えない。「ノイン」というのも数字の「9」の意味がある。九番目の何かだった、ということか…?
だとすれば、このまま「ノイン」と呼び続けるのは良くないな…。
改めて、目の前の子を見る。
神域が夜ということもあって、少し暗くて髪の色がハッキリわからない。ただ、不思議な色合いをしていたことは覚えている。
それでも、青と緑のオッドアイは見える。特に、左目の緑色は――
「――“
「りゅい…?」
「いや、左目の色が、凄い綺麗だから…つい」
「きれい…?僕の、目が…?…今までずっと、不気味だって言われてきたのに…?」
「ああ、綺麗だよ。」
ハッキリ返せば、顔を真っ赤にして自分の服の裾をギュッと掴んで俯いてしまう。
…なんだこの反応は。不意にも可愛いな、と思ってしまった。
「右と左で違うし、しかも左目の方はいつも不気味とかって…言われてきたから…」
「どうして?宝石みたいで綺麗じゃないか」
「う~~…な、なんか恥ずかしいです……。」
「…“リュイ”、でどうだ?」
「ふえっ!?」
試しに“リュイ”と呼んでみれば、恥ずかしそうにしながらも返事をした。
「…さて、いつまでもここにいるのはよくないだろうからな。そろそろ戻ろうか、リュイ」
「あ…は、はい!」
やはり慣れないのか、少し遅れて反応したリュイ。…まぁ、無理もないといえばそうだろう。けれど、「ノイン」と呼び続けるというのも気が引ける。それが原因で嫌な事を思い出して欲しくはないし。
それに、オレはこの子が人並の幸せを知るまでは傍にいると決めたのだから。