第一話 造られた子
「…一応、そう、だな、うん。」
苦笑しながら歯切れの悪い返事をする。ノインは不思議そうな表情をしながらも頷いてくれた。
「まぁ、何だ。君が放っておけなくて助けた。ただそれだけだよ」
「私みたいな存在を…ですか?」
「ん…?」
私みたいな存在…?なんだか気になる言い回しだ。ノインを見ると、俯き、表情が曇っている。
「僕みたいな、役に立たない、出来損ないのホムンクルスを…神様は助けたんですか…?」
「………」
「だって、だって私は…、あの場所でも何もできないのに、最高の個体と言われて…!でも僕は何も出来なくて、それに気付いたあの人達は怒るし、叱って来るし…、私もう、ずっと怖くて…死にたいくらいだった……!」
涙目で、震えながら自分の身体を抱くように縮こまる。
支離滅裂だが、先程の場所…恐らく研究施設だったんだろう――それも“人体実験”とかいう非人道的な事を行う場所。そこにこの子はずっといたということだけはわかる。よく見れば、腕や首にはいくつもの傷と痣が見える。余程酷い目に遭わされてきたのだろう。そして――この怯え様。
――死にたいくらいだった……!
その言葉だけが、心に突き刺さる。
ああ、そうだ。そうだとも。他人にはない力があるだけで、周囲は“私”のことを“英雄”と讃えた。
そして、“私”はずっと戦い続けた。何日、何週間、何ヶ月、何年も!
敵国も“私”を恐れた。死にたくない、死にたくない、死にたくない!“私”も相手も、お互いその一心で戦った。殺し続けた。
戦いは終わらない、終わらなかった。
自国はさらに富を求める、その為に戦争を繰り返す。“私”という存在がある限り、絶対に負けないと信じられていた。
もう“私”は戦いたくない。戦いたくはない。そう告げれば、次が最後の戦争だと偉い人は言った。
けれど、それは都合のいい嘘で、その“最後”はなかなか訪れなかった。
いつしか“私”の心は摩耗し、気付けば残滓くらいになっていた。
戦いたくない、戦う、死にたくない、死にたい、死にたい、死にたい死にたい――――
考えることはただそれだけしかなかった。
ある雨の中、帰路の途中、よろけて気付いた。
嗚呼、気付いたら左腕がない。これじゃもう戦えない。戦わなくて済む。
――死にたいか?
誰かが問いかける
しにたい、と“私”は答える。けれど、いつまでたっても殺されることはなかった。
そこで意識が遠退いて――最期に聞いたのは、“私”じゃない名前を呼ぶ、誰かの声だった。
――ああ、似ている。かつて時雨 が“私”だった頃に。
追いつめられて、心が擦り切れて、気付ば心は残り滓になっていて―――終わりを望んだ。
この子もまた、あの頃の“私”程ではないにせよ、過度に期待され、追いつめられている。
けれどまだ、間に合う。だから――
「…君は、死にたいのかい?」
オレの言葉にハッとしたように顔を上げる。まだ怯えた表情のままだが、少しだけ驚いているみたいだ。
「神…様……?」
「問おう、君は生きたい?それとも逝きたい?」
自分でも残酷な問いかけだと思う。これじゃあ、他の神々 と同じだ。
けど、これだけは決めている。
――この子がどんな回答をしようと、死なせはしない。
さぁ、この元“影人”の神に何と答える?
苦笑しながら歯切れの悪い返事をする。ノインは不思議そうな表情をしながらも頷いてくれた。
「まぁ、何だ。君が放っておけなくて助けた。ただそれだけだよ」
「私みたいな存在を…ですか?」
「ん…?」
私みたいな存在…?なんだか気になる言い回しだ。ノインを見ると、俯き、表情が曇っている。
「僕みたいな、役に立たない、出来損ないのホムンクルスを…神様は助けたんですか…?」
「………」
「だって、だって私は…、あの場所でも何もできないのに、最高の個体と言われて…!でも僕は何も出来なくて、それに気付いたあの人達は怒るし、叱って来るし…、私もう、ずっと怖くて…死にたいくらいだった……!」
涙目で、震えながら自分の身体を抱くように縮こまる。
支離滅裂だが、先程の場所…恐らく研究施設だったんだろう――それも“人体実験”とかいう非人道的な事を行う場所。そこにこの子はずっといたということだけはわかる。よく見れば、腕や首にはいくつもの傷と痣が見える。余程酷い目に遭わされてきたのだろう。そして――この怯え様。
――死にたいくらいだった……!
その言葉だけが、心に突き刺さる。
ああ、そうだ。そうだとも。他人にはない力があるだけで、周囲は“私”のことを“英雄”と讃えた。
そして、“私”はずっと戦い続けた。何日、何週間、何ヶ月、何年も!
敵国も“私”を恐れた。死にたくない、死にたくない、死にたくない!“私”も相手も、お互いその一心で戦った。殺し続けた。
戦いは終わらない、終わらなかった。
自国はさらに富を求める、その為に戦争を繰り返す。“私”という存在がある限り、絶対に負けないと信じられていた。
もう“私”は戦いたくない。戦いたくはない。そう告げれば、次が最後の戦争だと偉い人は言った。
けれど、それは都合のいい嘘で、その“最後”はなかなか訪れなかった。
いつしか“私”の心は摩耗し、気付けば残滓くらいになっていた。
戦いたくない、戦う、死にたくない、死にたい、死にたい、死にたい死にたい――――
考えることはただそれだけしかなかった。
ある雨の中、帰路の途中、よろけて気付いた。
嗚呼、気付いたら左腕がない。これじゃもう戦えない。戦わなくて済む。
――死にたいか?
誰かが問いかける
しにたい、と“私”は答える。けれど、いつまでたっても殺されることはなかった。
そこで意識が遠退いて――最期に聞いたのは、“私”じゃない名前を呼ぶ、誰かの声だった。
――ああ、似ている。かつて
追いつめられて、心が擦り切れて、気付ば心は残り滓になっていて―――終わりを望んだ。
この子もまた、あの頃の“私”程ではないにせよ、過度に期待され、追いつめられている。
けれどまだ、間に合う。だから――
「…君は、死にたいのかい?」
オレの言葉にハッとしたように顔を上げる。まだ怯えた表情のままだが、少しだけ驚いているみたいだ。
「神…様……?」
「問おう、君は生きたい?それとも逝きたい?」
自分でも残酷な問いかけだと思う。これじゃあ、他の
けど、これだけは決めている。
――この子がどんな回答をしようと、死なせはしない。
さぁ、この元“影人”の神に何と答える?