第一話 造られた子
「……」
何も言わずに男達を睨む。同時に軽く殺気を出せばビクッと肩を震わせた。
「な、なんだよコイツ…!」
「ひ、怯むな!さっさと取り返すぞ!」
在り来たりな反応だな。心の中で毒を吐き、オレは自分の影を蹴り上げた。同時に、黒い霧が舞いあがる。
「な!?」
「くそっ…何も見えない…!」
「探せ、手探りでも見つけ出せ!」
黒い霧は男達の視界を奪い、オレ達を見えなくさせる。それを確認すると同時に、オレは膝辺りまで身体を影に溶け込ませる。そして、その場から退く。この状態だと、足で走るより少しだけ早くなる。
ある程度距離を取り、ノインと呼ばれた子を抱え直す。所謂お姫様抱っこ、というヤツに。
「さて、このまま逃げても無駄だろうし…この際こうしてしまった方がいいよな」
「え…?」
ノインが不思議そうにオレを見上げたのか、視線を感じた。オレは口角を少しだけ上げ、魔力を込める。込めた魔力を全身に行き渡らせるようなイメージ。全身に、満たされていく、という感覚がした。
「じゃ、君を神域に招待しよう―――」
跳躍し、影から飛びあがる。オレから離れた影は、円を描いた。そのまま、ノインを抱えたまま、開かれたゲートに落下する。
「え、あ、ひゃああああああ―――」
驚いたノインの声は、森の中で最後まで響かず、途中で途絶えた。
◇
「くそ…!どこに行きやがった…!」
必死に黒い霧を振り払う男達。その最中に、ノインの悲鳴が上がったのだが、“霧”の効果でそれは聞こえなかった。
それもその筈。この“霧”は使用者と認めたもの以外には「視界と音を奪う」という効果があるのだ。
音を奪う、という効果は、竜胆にとっては自分達の逃走の為に使ったのだが――
それは、予想もしない形にも発展した。
「………」
深くフードを被った青年が、霧を払おうとしている姿をじっと静かに見詰め――否、睨んでいた。
霧が薄くなり、視界と音が戻り始める。それき気付いた男達はノインと竜胆を探そうとそれぞれ動き始める。
動き始める、ハズだった。
「――あ?」
一人の男が走り出そうとした。しかし体は思うように動かず、何故か視界は地面に向かっていく。腕を動かして地面への激突を避けようとする。しかし、その腕はボトリと先に地面に落ちた。
腕が落ちた地面に血が広がっていく。――何だこれは、何がどうなっている。
男は困惑した。そのまま地面に激突し、身体に痛みが走る。同時に、それ以上の痛みが両足と両腕に走った。
恐る恐る、自分の足を見て…男は絶句した。
自分の足が、膝から下がなかった。自分が立っていた所にその足が残っている。何だこれは、何だこれは、何だこれは!!
「た――」
助けて、と叫ぼうとした。しかし。
「罪人は、
急に目の前に白い長髪の青年が現れる。そして、目にも止まらぬ速さで短剣を振るう。
ごぽり。
男の口から出たのは叫び声ではなく、鮮血。ボタボタと吐き、自分の白衣を汚していく。
これはもう、死ぬ。意識が遠退いていく。
しかし青年はまた短剣を振り上げていた。もう死ぬのに何故、と思った所で男の意識は無くなった。
―――男が最期に見た青年の顔は何故か、泣きながら笑っているという、矛盾した物だった。