第一話 造られた子


 眼前に広がるのは、たくさんの木々。
 森とかなんだろうな、と思っていたが、木々の間から白い建物らしき物が見える。

「…まさか、どっかの屋敷とかの敷地内とかに飛ばされた感じか?これ…」

 だとしたら何してくれてるんだあの神擬き…!帰ったら真っ先にシバく。絶対にだ。

 一人謎の決心をした矢先、建物の方から怒号が聞こえた。

「!」

「―――!――!」

 ここからでは何を言っているのかはわからない。わからないが…尋常じゃないのはすぐに理解できた。
 下手に首を突っ込むのはあまり良いとは思わないが…。

(何なんだろうな、これは)

 直感か、何かなのだろう……胸騒ぎがする。

 ぐっと胸元を抑え建物の方を見る。…森ということもあるからか、“影”はいくらでもある。

「………」

 少し集中すれば、静かにオレの身体が“影”に沈んで行く。――いつもの様に“影に溶け込む”。
 
 そのまま、声のする方へ、意識を飛ばす。身体を送る。

 影の中はある意味でオレの神域の一部だ。かつては、ただの黒い霧の掛かった場所だったが、今は違う。鮮明に、その場所を見ることが出来る。多少黒い霧は残っているものの、以前の様に全く見えない、ということは無くなった。

 まだ、身体は浮上させない。まるで水の中にいるような感覚を覚えながら、オレは声のする場所に辿り着いた。


「――おい、早くしろ!」

「ほら歩け9ノイン!さっさと行かないと今日の罰が増えるからな」

「っ……」

 白衣の男達が数人、そして9ノインと呼ばれた不思議な髪色の少女…いや少年か?――その子が一人の男に首に付けている首輪を強引に引っ張られ、苦しそうに顔を歪める。

 …何だよ、これ。

 あの子は一体何なのだろうか。というか、それ以前に……

「人間に首輪を付けて、犬みたいに扱うなんて……下衆かよ、アレ。」

 自分でもかなり低い声が出た。この、胸の中に湧き立つ黒い感情と殺意。

 ああ、もう駄目だ。見ていられない。

 ナイフを手にし、オレはゆっくりと男達の近くに近づいて行く。…勿論、影に溶け込んだままだ。

「オラ!言う事が聞けないのか、この鈍間!」

 グイッと首輪を強く引っ張られ、9ノインがよろけ、地面に転びそうになる。



「……っと」

 条件反射、と言うべきか。気付いたらオレは影から身体を浮上させ、転びかけていた9ノインの身体を片手で受け止め、この子を繋いでいた首輪に繋がる縄をナイフで切る。

「な…どこから!?」

 男達はいきなり現れたオレに驚いている。…そりゃそうだ。まさか影から人が出てくるなんて、夢にも思わないだろう。

 
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