壱
「な……何なんですか…」
何故、鬼ヶ式うらと同じ姿なのか。
何故、縛られているのか。
………何故、こんな所にいるのか。
そんな疑問が尽きない。言葉は喉元まで来てるのに、それを口にすることは出来なかった。
「……さすがに気付くか」
そう言って彼女はボクから離れる。
………まるで、ボクが考えていた疑問が分かったとでも言うように。
「ん…?どうした?」
首を傾げ、目を細めている。
…その視線が、何処か熱っぽいのは何故なのだろうか。
「え、あ……。その〜…何を聞けばいいのやら…」
いざ問われるとどう答えたらいいのか分からない。
…それでも、先程までの疑問は、問えそうにない。
「焦らなくてもいい。ゆっくり考えるといいさ」
そう言って撫でようとしたのか、手を伸ばそうとするが縛られている為、自然と両手を伸ばすことになる。
…仕方なく、というように彼女は手の甲でボクの頬を撫でた。
「ん………えっと、そうだな…此処は何処なのか…とか…?」
……雰囲気に流されてたが、よくよく考えたらまだあの化け物だらけの世界に居るのは変わりない。
「ふむ……。おチビも予想はついているとは思うが……此処は人間が来るような場所ではない。
怪異や妖魔といった人ならざるモノの吹き溜まりだ。とはいえ、この時間帯なら何らかのきっかけで人間が迷い込むのは無理も無いが…」
……うん、薄々そんな気はしていた!
案の定、人間じゃない輩の場所だったか。それにしても、時間帯…?
「…あ、もしかして…逢魔が時?」
逢魔が時。
具体的な時間は大体18時くらいをさす。
妖怪とか幽霊とかの怪しいモノに出会いそうな時間、或いは他界と現実を繋ぐ時間の境目とも昔から言われている。
時計が止まっているスマホに表示されていたのは18時を少し過ぎた時間。
まさにこの時間、見事に逢魔が時なのだろう。
「その通り。逢魔が時、その時間に境目を越えたのだろうな。その結果、此方に来てしまった。或いは──」
彼女はそこで言葉を止める。或いは…?と思っていると、ニコリと微笑むだけだった。
な、何だと言うんだ一体…!?