弐
「……どうしたものか」
壁を睨みつけ、扇子をもう一度構える。
シャン、と鳴らし御札が数枚散る。
「無理矢理にでも開こうと思えば出来ない事はないだろう。
……修繕費がかかってしまいそうだが」
だが、これもおチビを助ける為だと呟き、腕を振り上げ──
「あまり仕事を増やさないでくれるかな。鬼ヶ式うら」
アルとは違う、男の声がうらの背後からした。
「誰だ」
即座に声がした方に扇子を向け、警戒する。
そこには黒いフードを被った青年が立っていた。
武器を向けられているというのに青年は動じることなく、それを一瞥するとうらの顔を見る。
「んーそうだな。Voidollの手伝いをしてる秘密裏のプレイヤー、と言っておこうか。」
「Voidollの…?」
「そ。……だから、あまり乱暴なやり方されると後処理が大変だからやめて欲しいんだよね」
そう言って青年は肩を竦める。
「成る程。だが、今回は急を要する。…勿論、修繕費はこちらが出す。」
武器を下げ、代わりに頭を下げる。
青年は顎に手を当ててじっと見つめていた。
「急を要する、ね。……アルタがそんなに大事?」
青年がアルタの名前を出した瞬間、うらは顔を上げた。
「…何故、貴様がおチビの名前を知っている」
うらの表情が険しくなる。
それもその筈。交友関係のあるプレイヤー同士であれば、アルタの名前が出てくるのは理解出来る。
だが、目の前に居る青年は見た事が無い。バトルやラウンジでも見たこともない。
にもかかわらず、青年は当然の様に「アルタ」の名前を言ったのだ。
「ボクがアルタの名前を知ってるのが、そんなに意外?
…というより、警戒されてるね。」
やれやれと苦笑し、肩を竦める青年。
元々怪しいとは思っていたが、さらにその疑惑は深まっていく。
もう一度武器を向けようとした時、青年が口を開いた。
「色々あって、今は彼女に会えないけどボクはあの子をよく知ってる。
ボクとアルタは昔馴染み、とでも言っておこうか。」
「昔馴染み……」
ぴた、と武器を向ける手を止めた。
しかし警戒は緩めず、睨むように青年を見つめる。
「そ、昔馴染み。……まあそんな事より、キミはアルタを探してるんだろ?」
「…ああ。」
青年がうらの背後にある壁を一瞥し、ふむふむと頷く。
「それなら、こっち。ここにあった入口を無理矢理こじ開けるより、マシな方法があるから。」
……ボクを信用してくれるなら、だけど。と付け加えると青年はうらの目を見つめる。
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