05 幕間 死神サマと人
「最期を譲れ、とは何だい?」
「そのまんまの意味だぜ?」
声色からして、13がニィッと笑ったのが、何となくわかった。
「ヒサメの心が手に入らないのなら、俺はその魂を戴くだけなんだわ。それにホラ、ボクチャンってば死神だし?」
「…ああ、そう言うことかい」
普段のおちゃらけた言動で忘れてしまいがちだが、彼は【僕】らとは違う──死神という別の存在だ。
【僕】自身、在り方が明らかに異なるからハッキリと「人間」と言い切れないかもしれないが、少なくとも目の前の「死神」のような存在ではない。
だからこそ、なのだろう…彼の回答は。
「つまり、【君】はヒサメの【魂】が手に入るのなら、あの子が死んでも構わないって言うのかい?」
「そゆこと。ま、ちと早すぎるけどよ…俺らにどうこう出来るような問題じゃねーだろ?アレ」
「……それをどうにかしようとしている、【僕】を止めたりはしないんだね」
「まあな。お前の足掻きで相棒が生きようが死のうが…別に俺にはどっちでもいーんだよなぁ、これが。」
「どちらでも……?」
またもや意外な回答だ。
てっきり「どうでもいい」とでも返ってくると思っていた。
「そ。なんだかんだで相棒と話してたりするのは楽しいからよ、こういうのは生きてるうちじゃねぇと楽しめないからなぁ?
死んで魂になったらそれまでだ、今までみてぇに話すことはほとんど不可能なんだわ。」
掌を開き、ぐっと握りこむ動作をし、13が【僕】の方を見て、ニッと笑いかけてきた。
「だからよ、結果がどうなっても最終的に、どちらも俺は得になるんだなぁコレが」
「…成る程」
恐らく、他の世界線の彼も同じ答えを言うのだろう。
通りで、13は何もしてこなかった、という訳か。
「まあ、足掻いて足掻いて、最後まで足掻くといいんじゃねーか?」
「簡単に言うね、【君】」
【僕】達はもう失敗したというのに。
「本当にこれで終わりか?だったら今ここでお前と相棒を殺すからな」
「……」
「オイ、無反応かよ!ツマンネー…。萎えるわーそういうの」
げんなりとした表情でがしがしと頭を掻く13。
何故だろうか。
……ここで終わってもいいと、まだ思えない。
(失敗したというのに?)
何故。
何故。
「零夜お前まさか、普段は小難しい事言うクセに、こーいうのはわかんねぇの?」
はぁ、とわざとらしく13が溜め息を吐いた。
「お前、まだ諦めてねぇんだよ。それくらい気付けよ」
「……ん」
ぐい、と頭を掴んでぐりぐりと揺さぶられる。
まだ、諦めていない?
あんな結果を見たのに?
「そんなら人間らしく足掻けよ。その方が相棒も報われる」
ぺちん、とデコピンまでされた。
それだけ言うと、13は振り返る事もなく去っていく。
「……ありがとう、13」
聞こえたのだろうか、振り返らずにただヒラヒラと手を振り返してきた。