05 幕間 死神サマと人


「っはぁ…はぁ…」

 ガクリ、と膝を付き、止まりかけた息を深呼吸で整える。
 目の前に倒れている人型のプラズマはふわりと消えた。

 ……やはり、死者の記憶を最後まで見るというのはリスクがある。危うく【僕】も引き摺られる所だった。


 ──たとえ、それが【我々】の物でも。

 本来、直前にチャネリングを終わらせて、という方法で見ることはあるが、今回のケースは最後まで見る必要があった。

「…最も真実に近づけていた【僕】、か……」

 今の【僕】が手に入れた情報を、ほとんど一人で手に入れていたようだ。
 ……別の世界線へ移動しても、どうやってもヒサメは死ぬ。やはり、この世界線は詰んでいるように思える。

「おいおい、こんなトコでお前さんまで倒れんなよ」

 不意にぐいっと腕を引かれ、立ち上がらせられる。

「っと…随分と乱暴だね」

「だって相手は大将じゃねーし、俺様簡単に誰にでも優しくはしねーよ」

「そのワリにはリリカやコクリコに手を貸したりしているのを見たことあるのだけど」

「あー…?なんつーか彼奴等だと放っておけなかったんだよ…ってやかましーわ」

 顔を上げれば黒と赤が目に入る。…13だ。
 
「で、アイツらすげー事になってるけど、放置でいいのか?」

「……正直、どうやって声を掛けたらいいのかわからなくてね…。」

 彼らをあんな風に傷つけてしまった原因は【僕】にもある。
 
 先程までの光景を思い出す。

 あれだけ彼らは必死だったのに、結果は報われない。
 ─何が足りなかった?
 ─何がいけなかった?
 ─何処で選択を間違えた?

 ……もう、わからない。

 未来は観測出来ない。…いや、この世界線は観測出来なくても結果は解かり切っているが。

 ──真実に近づけていても、あと一歩足らずで、救えなくて


 あの【僕】は何度失敗し続けたのだろう。

 あの【僕】と同じ様に、【あの子】が死なない世界線を探すしか、方法はないのだろうか……。

「どーした、零夜。今にも死にそうなカオして」

 目の前の死神はこて、と首を傾げてマスクの口元は「笑み」を浮かべている。

「……【君】には関係ないことだ」

「おーおー、冷たいねぇ…でもそこまで辛そうにしてんのはボクチャン見てらんねぇなぁ……──楽にしてやろうか?」

 すっと赤い目を細める。あ、と思った時にはもう遅かった。

 彼が背負っている赤い鎌が、【僕】の首元スレスレに向けられる。

 今は〝摂理〟世界コンパスの中。仮に13に殺されたとして、その場か自分の部屋にリスポーンするだろう。…当然、痛みは伴うだろうが。
 ……ああでも、彼は「コンパスにいるヒーローを殺す為に潜り込んだ異物」とも言われているんだっけ。それだと少し危険かもしれないな。

「何のつもりだい?【僕】を気遣ってくれるのは有難いけど、生憎死にたくはないんだけどね」

 数歩下がって、鎌から逃れる。13は特に何もしない。それどころか鎌を気怠そうに肩に担いで──代わりに銃に手を伸ばそうとする。

 思わず、その手に向かってプラズマを放った。

「いって」

 バチリ、と音を立てて13の手にプラズマが当たり、痛みと痺れを誤魔化すようにぶらぶらと手を振る。

「ヤレヤレ、異物はどっちなんだろうなァ」

 は~あ…とわざとらしく肩を竦めながら溜め息を吐く13。
 赤い目が、【僕】を見た。

「お前、ここの世界線の【零夜】じゃねーだろ」

 
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