04 #THE END


 ◇

 ──数十分後

「ごめん、適当な空き部屋ってあるかな…今は一人になりたいんだ」

 そう言って、空き部屋に一人、私は呆然と立ち尽くしていた。

 思い出すのは、先程までの事。
 ずっとキーボードを叩いていたのもあってか、腱鞘炎でも起こしかけてるのだろう、手が痛い。それをBデータイレイザーとリジェネレーターの掛け合わせで無理矢理に治す。

 …そう、こんな簡単な傷とかはすぐに治る。

 なんなら、帝竜や真竜が振り撒く状態異常も、それらのスキルを使って治してきた。

「…なのに、どうして」

 元々、ヒサメに投与されたと思われる殺人ウイルスの情報は知っていた、知ってはいたけれど。

「まさかこんな……っ」

 これほどまでに、手の施しようのないモノとは思わなかった。

 自分の考えが甘かったのか、それとも、慢心でもしていたというのだろうか?

 ガクリ、と膝と手を付く。

 自分が出来る限りの手段は尽くした、尽くしたけれど──

「ヒサメちゃんを蝕む、ウイルスの進行は止められない…」

 遅らせることすらままならなかった。
 このままでは、零夜が来た世界線と同じ様に……

 せっかく、過去に飛んだのに

 私達が助けるって、決めたのに

 この有様だ

「……何の為の、異能力だよ」

 ダンッと床を叩く。

「何の為の、異能力なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 救えないのなら、こんな力、あっても意味がないじゃないか──

 悲鳴を上げる。床を何度も叩く。涙が止まらない。
 今の私は、ぐちゃぐちゃだ、何もかも。

 ただただ、自分の無能さを呪った。

「あああああああああああああああああ──!!!!」

 
 ◇


 ……空き部屋に入って行き、そこから悲痛そうなミコトの悲鳴が聞こえてきた。

 それはそうだろう。ヒサメへの回復スキルをほとんど回していたのは彼女なのだから。

 そんなボクは……ほとんど、何もしていない。
 というよりは、やれるものが無かった。


 ボクは破壊に特化した──兵器故に、ボクは回復や補助のスキルをあまり扱えないから。

 そういう風に作り変えられ、ずっとその方法で生きてきた。
 一応覚える努力はしたものの、他の同系統の異能力者と比べれば明らかに劣る。


 フードを被り直し、ドアの近くに凭れ掛かり、ずるずると床へへたり込む。

 少しだけ顔を上げると、黒とライトグリーンの服が目に入った。…零夜だ。
 ……今は、彼の顔を直視出来ない。足元の方へ視線を向けながら、ボクは口を開いた。

「ごめんなさい。ボクも、ミコトみたいに何か出来たのなら……」


「……イツキ」

「…あはは、ボクは兵器だから…壊すことしか出来なくて……彼女みたいに、サポートしたり、回復させたりするのは本当に不得意で……こんなの、ただの言い訳になっちゃいますよね」

 零夜は何も言わない。

 掛ける言葉を探しているのだろうか、それとも呆れたのだろうか。

 …どちらにせよ、あの場でのボクはあまりにも無能だ。

 もしも、もしボクが回復のスキルを使えたのなら。それこそ

(キセキの代行者、或いはユグドラシルの風が使えればよかったのに──)

 全ての異能力を扱えるボクが、未だに使えないスキル。
 サイキックの秘奥義【キセキの代行者】
 フォーチュナーの奥義【ユグドラシルの風】

 どちらも最高の回復スキルとボクは見ている。蘇生、状態異常回復、体力の回復、範囲は味方全体。それらを行える。

 ……もし使えたのなら、ヒサメを助けられたのかもしれないと考えると、胸がチクチクと痛む。
 気分が沈んでいく。

 目の前にいたはずの零夜は、いつの間にか居なくなっていた。

 
 THE END





或いは


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