04 #THE END
「……は?」
今、彼は何と言った?
嫌な感じだ。心臓がヤケにうるさく脈打つ。
「助からないって……いやでも確かに、実験催促の連絡は受けてたというのは…」
「多分、ホムンクルスの参加の有無の意思は関係なくて、手紙や連絡が届いた時点で強制的に参加扱いっていうのはなんとなく察してたよ。違う?」
少し声を震わせながら、ミコトがそう訊けば「察しのいい実験動物は嫌いじゃないぞ」と答えた。
…つまり、ヒサメはターゲットに入れられていたのは確実だ、ということだろう。
「──もう、遅いんだよ。何もかもが」
どういう、ことだ。
──正直、聞きたくはない。
けれど、聞かないといけない。
矛盾した考えがぶつかり合う。
いっそ耳でも塞いでしまおうかと思い、耳に手を持っていこうとして
「薬は既に、投薬した。」
………時が、止まったような、気がした。
「……え…?」
自分でも情けない程、小さく掠れた声が出た。
「う、そ……」
ぺたん、と愕然とした表情でミコトがへたり込む。
「だ、だって呼び出しのメールなんて見てなかったし、そんな急に…」
「……今日の日付の、メール、ありましたよ」
「は…ぁ!!?」
何か言いかけたミコトの言葉を遮るように、イツキが聞いたことのない情報を口にした。それを聞いて、ミコトが声を荒らげる。
「っなんでそんな大事なこと言ってくれないの、イツキ!!情報共有大事って言ってるじゃん!!」
「手遅れだと思ったからですよ!!…受信した時間、今の時刻を見ても、既にヒサメはここにいない、それはつまり、全て終わったということだと、思って…」
イツキもまた声を荒らげていたが、最後の方は小さくなっていった。
…まさか、メールの見落としがあったなんて。
ただ、イツキの言う通り、見つけた時刻時点ではもう手遅れだという方が、……──
「…つまり、この世界線も」
「あぁ、お前にあのホムンクルスは救えない」
アハトの返答に、頭を殴られたようなショックを受ける。そのままふらつき、膝をついた。
「これではもう、俺の勝ちには変わらないな…?いくら運命に抗っても無駄なんだよ、【パラレルレイヤー】」
ぼんやりと、アハトの方を見る。
「お前たちに、逃げ場なんてない」
そう言った、男の目が、何処かで見た緑色に、見えて──
「その減らず口を閉じろ」
血飛沫が、舞う。
目の前には、いつの間にか前に出てきたイツキの後ろ姿。
その彼に隠れた、向こう側で何かが倒れる音がした。同時に、鉄のような臭いが鼻を突く。
「……イツキ」
「我慢がならなかったので、殺しました。」
こちらを振り返る事なく、抑揚のない声で答えた。
「零夜、コンパスの世界に行きましょう」
「…どうして?」
「ヒサメが帰って来てるかもしれないからですよ。…ミコト、まだ行けますよね?というか、アナタにやって貰わないと困ります」
「…え、あ……あー、確かにデバフ回復スキルはあるっちゃあるけど…って成る程!それならもしかしたらワンチャン治せるかもってことか!」
茫然自失状態だったミコトが我に返り、立ち上がった。
そうして【僕】を見ると、手を引いて立ち上がらせる。
…成る程、もう少しだけまだ、希望がある、ということなのだろうか。それならば
「……まだ、諦めるのには早いってことか」
そう、声にして言ってみたけれど
不安は消えない。