04 #THE END
ダンッ
という銃声。
痛みはあった。
…デコピンされた時の衝撃と痛み程度の。
銃弾は【僕】を貫くことはなかった。それどころか、弾いてる。まるで、全身に透明で強固な鎧でも纏っているのかのように、弾がくるくると宙を舞う。
「なっ…!?」
何が起きているのか、わからない。
とでもいうように、アハトが固まっている。
それを見てミコトがニヤリと笑った。
「この現実でも『チート』として意のままに扱う。生体ハッキングによる強化もその部類だし?だからさ……この程度の【無敵】っていうのも出来るわけさ!」
『ミコトなーいす!禁断の秘儀のタイミングばっちりだーぜ!』
ミコトの手にはゲーム機のコントローラーらしきものがある。
…一体何をしたのかはわからないが、どうやら【僕】は彼女のおかげで助かったらしい。
……ならば、反撃してもいいだろう?
「──爆ぜろ」
狙いはアハトの足元…と言うより足そのものに定め、【爆発】させる。
「がっ…!?」
目論見通り、足の部分が爆発した。…さすがに取れなかったようだが、身体のバランスを崩すことには成功したようだ。
「飛べ、燃えろ、焦がせ」
即座にルーンを刻む。プラズマが男に当たり、さらに体勢を崩していく。
「逃げたって構わないよ?」
避ける間を与えず、遠距離の攻撃を放つ。威力はそれなりに高い物を選んだつもりだ。
「っ調子に…」
「させませんよっ!」
再びアハトが拳銃を構えようとした瞬間、イツキがその腕を蹴り上げた。拳銃は宙を舞い、ドボンと音を立てて廃棄所の穴の中に落ちていったようだ。
容赦なく蹴りを入れたらしく、相手が呻き声を上げながら腕を押さえている。
「くっそ……!実験動物ごときが…!」
「そうやって見下してるから、こんな目に遭うんですよ。」
冷めた目で、アハトを睨みながらイツキが構える。片手に炎、もう片手に氷を。
「──煉獄で震えなさい!」
それを相手に向かって投げた。氷と炎。瞬間それぞれ膨れ上がり──爆発した。
水蒸気爆発を利用したスキルなのだろうか、威力がえげつない。煙の中からアハトが転がって飛び出し、そのまま倒れこむ姿が見えた。
「ぅ……ぐ…っ」
何度か噎せ込み、蹲っている。
すぐに立ち上がる様子はない。
「腕の骨を折るつもりで蹴りを入れたので。なんなら脱臼もしたんじゃないんですかね?」
ニッコリと口元に笑みを浮かべながらイツキが言う。目は、射殺さんと言わんばかりに殺気に溢れている。
その姿があまりにも──歪で、違和感しかなくて、寒気がした。
そして彼の言う通りなのだろうか、アハトは腕を押さえたまま、呻いている。その様子に気にすることなく、イツキが笑みを浮かべたまま近づいていく。
…何故だろう、嫌な予感がする。
「っイツキ、【止まれ】!!!」
ミコトがキーボードを出現させ、キーを叩きながら叫んだ。
その途端、イツキの手足を見えない鎖で繋ぎ止め、次の一歩が踏み出せないような状態で停止する。
「何故、止める」
露骨に不満そうな顔をしながらミコトを見た。
「…まだ、ダメ。抑えて」
「チッ」
彼女が手短に伝えると、イツキが舌打ちで答える。
…が、一応はそれを聞き入れたのだろうか、そこから動くことはなかった。…ただし、いつでも飛び掛かれるように、と言わんばかりにアハトを見据えながら、だが。
「…これも、【観測結果】に含まれていた光景かい?」
アハトに問いかけると、ビクリと身体を震わせ、苦痛に顔を歪ませながら【僕】を見上げた。
「ぅ…あ……ッ違う、こんなもの、知らない、知らない……!」
「だろうね。この結果は【僕】にも【観測】出来てはいないよ。」
この言葉に嘘はない。
…正確には、ミコトやイツキと関わり始めてから【観測】しても結果が常に揺らいで視えない。
まるで、【観測結果】という【未来】が常に書き換わっているような感じにも思える。
ここまで揺らいでいるというのは過去に例がない。
「──早く、僕を殺さないのか」
「え」
やけにハッキリと、痛みに顔を歪ませながらアハトがそう言った。
………なんだろう。まるで【罠】のような雰囲気を感じるのは。
「……【君】は死にたいのかい?」
首を傾げながら問いかければ、アハトは冷笑しながら口を開いた。
「ハハ……僕をこんな目に遭わせておきながらよく言えるな」
「それもそうだね。」
「…ッ本当に…気に、食わない奴……」
悪態を吐き、仰向けになると、もう一度「早く殺せ」と言った。
「それじゃあ、ありきたりだけど、最後に言い残すことはあるかい?」
【僕】がそう問いかければアハトは僅かに口角を上げた。