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04 #THE END


「──随分と荒らしてくれたようだな。そんなに実験体にされるのが嫌なのか?」

 私でも、イツキでも、零夜でもない。なんならミイヤでもない。

 知らない男性の声だ。

 ドアの方を見ると、鼠色の髪で眼鏡を掛けている白衣の男が立っていた。

 ……一応、資料で見たアハト写真と一致してるから多分、アハト本人だとは思う、多分。

 色素の薄い灰色、というより透明ともいえるような目をこちらに向けている。呆れた様な、そんな目だ。

(なんとか間に合ってくれたみたい…。都合よく「視えて」いるっぽいね。)

 どうやらアハトは私達を「ホムンクルス達」と幻視しているらしい。
 …しかしホムンクルスに見えてるのかぁ…これはこれで面倒な予感…。

 一人ゲンナリしていると、アハトが零夜を見て目を見開いた。
 そうして、口角を上げ、目を細める。


「なんだ、“また”来たのか零夜」


 何故、幻術が効いてない?イツキを見れば「零夜だけ掛ける時間が無かったんです…」と口パクで伝えてきた。
 よ、よりによってそこをピンポイントでお前~~~…!とツッコミを入れたかったが……それ以上に、何故アハトは零夜を知っているの…?
 

 *

 部屋に入ってきた男が、【僕】を見るなり「“また”来たのか」と言った。

 【僕】自身はこの男…アハトと直接会うのはこれが初めてのハズだ。
 何度かここに来た時に精々すれ違う程度はあったのかもしれないが、こうして対面すること自体は……無かった。

(それとも、ここの世界線の【僕】は会ったことがあるのか…?)

 チラリとミコト達を見る。警戒はしているようだし、少しだけなら何とかなるだろうか。

 チャネリングし、この世界線を含めた別の世界線いくつかの【観測】を試みる。

  
  
死亡
失敗
 救いなどない
  
救えない
助けられない
 繰り返し 繰り返し
  
死死死死殺死死死死死死死死死
アハトが【僕】とあの子を殺す
 逃げ場なんてない

 ──情報が、氾濫する。


「ッ…!」

 思わず頭を抑える。何だ、これは……。

「全て、【失敗】に終わる……?」

 即席でいくつか観た世界線。いずれも、失敗する物ばかりだ。

 それも全て……この男の所為で、【我々】が終わる。終わらせられる。

「何処の世界線のお前なのかは知らないが、性懲りもなく来るんだな、零夜という存在は」

「な、に……?」

 コツコツと足音を立てながら距離を詰められる。
 この言い方は、まるで──
 
「その様子だと観測したんだろう?──どう足掻いても【死ぬ】という結果が」

「……何故それを」

「簡単だよ。俺も【観測】したんだ。お前程ではないが、別の世界線の事がわかるんだ」

「馬鹿な…!」

 思わず数歩後退る。
 否、確かに自分と同じ或いは近しい能力を持っている存在がいても可笑しくないのは否定しない。否定はしないが……

(よりによって、【僕達我々】とあの子を殺した相手だなんて……)

 ただ、不幸中の幸いと言うべきか、あの男が【僕達我々】や【並行存在】という訳ではないのが救い、というべきなのだろうか…。

 受け入れ難い現実に直面していると、フッと笑いながら【僕】を見下す。

「そうやって、毎回受け入れ難い現実を見てショックを受けている表情カオを見るのは今日で何度目だろうか?…昨日も見たし、その前も見た。きっと明日も見るんだろうな…」

「ねぇ、ちょっとそれって…範囲はどれくらいなのさ」

 ミコトがアハトを睨みながら問いを投げる。

「…どうせ私らはアンタらに食い潰されるような存在なんだよ、冥途の土産ってことで教えてくれてもいいんじゃない?」

 どうやらアハトにはイツキ達が正確に【視えて】いないらしい。それを利用して、こうした質問をしているのだろう。

 アハトは【僕】をミコト達を交互に見ると「ふむ…」と一度頷き、背を向けた。

「実験体にしては物分かりがいいようだな。それに免じて教えてあげても構わない。…場所を変えるぞ、着いて来い」

 チラリとミコトを見ると「こいつチョロいな…」と言わんばかりの表情をしながら、イツキの両腕を掴んでいた。
 イツキはというと……殺気の籠った目で見据えている。顔に表情は無かった。ミコトが強めに腕を掴んだのか、イツキが彼女の方に視線を移す。

「(おさえて、いまはまだだめ。)」

 口パクで、そう言っているのが何となく理解出来た。イツキもわかったのだろうか、渋々と頷いていた。

 
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