04 #THE END


「このホムンクルスは、参加表明を出してる。名前にも見覚えがある。…確か、この名前の人は今日から12日後に亡くなったという報告があったはずだ」

「ちょ、ちょっと…零夜、まさか」

 パタン、とファイルを閉じる音。
 伏し目がちに零夜が口を開いた。

「恐らくだけど、その憶測は当たっているのかもしれない」

「ッ!!」

 ……最悪だ。
 本当にこの憶測が正しいのであれば、あの手紙とメールが届いた時点で、ヒサメはもう「実験体候補」としてカウントされているということになる。

 つまり、これは。このままだと──

 思わず零夜の肩を掴んだ。
 いきなりの行動に驚いたのか、驚いたというように目を少し開いて、困惑した表情でこちらを見ていた。

「零夜、今すぐヒサメちゃんを連れて別の世界線へ逃げて!そうじゃないと、手遅れになる!!」

「っ、でもそれは」

 そう言って口ごもる。
 きっと、零夜的には最初からそうしたかったのかもしれない。けれど…

 他のホムンクルス達が亡くなったと知った時の、表情があまりにも痛ましい。

 その表情をさせたくないから、可能なら他のホムンクルス達を切り捨てる、という選択はあまりやりたくない、とでも思っているのだろう。

「他のホムンクルスを見捨てるってことになるのは私も理解してる!私だって『1人を救うのに5人を切り捨てる』みたいなことはしたくないよ!」

 俗に言うトロッコ問題だ。
 今の状態は、まさにそれに直面してしまっているようにも思える。

「でも、このままだと、このままだと…折角過去に飛んだのに間に合わなくなる!だったらせめて、ヒサメちゃんだけ助けるっていう方法はある!何の為に、零夜はここまで来たワケ?それがわかっているなら──」

 ヒサメだけでも連れて、逃げて。と言おうとした瞬間、イツキが慌てた様子で声を上げた。

「──誰か、来ます!」

『その言葉に偽りなし!生体反応1名、こちらの部屋に向かってきてるよー!時間はそんなにない、あと5分くらいかな!』

 何もかも、タイミングが悪い。

「ああもう!隠れてる暇もないだろうし…いっつー、いつもの“幻視エンチャント”しといて!」

「言われずとも!」

 イツキが取得したという謎のスキル・幻視エンチャント。
 「相手に都合のいい姿を誤認させる」という、まさに「幻術」と言ってもいいスキルだ。一応、ハッカーの能力判定らしけど、どんなスキルだよソレ…と毎回思ってしまう。
 でもまぁ、状況次第ではかなり有効的なスキルではある。味方同士には幻術は効かないが、相手にはめっちゃ効く。
 ただし効果はそんなに長くない。長くて半日程度、短いと2時間程で切れてしまうので長時間幻術で騙し続ける、というのは無理なんだとか。

 空中にキーボードを出現させ、カタカタとコマンドを打ち込んでいく。他のハッカーのスキルより複雑なのだろうか、少しだけ時間がかかる。

(…アレこれ、こっちに来てるっていう人が来るまでにバフ掛け終わる…?)

 ヤバイ、なんか心配になってきた。

「い、一応念の為に隠れ……ンギャッ!?」
 
 そう言ってしゃがもうとして、何かを踏ん付けて滑った。

『みーちゃん!?』

「…成る程、これは確かに精神的ブラクラな写真だね」

 どうやら、床に叩きつけた写真を踏ん付けたらしい。私が転んだことにより、ソレはひらりと舞い上がり零夜の方へ落ちたようだ。

 ……要は、私は盛大にスッ転んだ。

 一応受け身を取ろうとして机に手を置いた…が、色々と上にあった物をグシャグシャにしてしまったらしく、雪崩れた。そして床に散らばり、いくつか私の上に降りかかった。

「いだだだ……ぐぇっ」

 ワンテンポ遅れてから、お腹の上に何か落ちてきた。何だよ…と思ってソレを見た。

 ──「Homunculus Murder」のラベルが貼られている、手のひらサイズの箱だ。

 驚きつつもその箱を開けると、小さい小瓶が入っており、そこにもボールペンで書かれたであろう文字が…「HM」と書かれたラベルが貼られている。

 もしかしなくても、これが……と思った瞬間、箱を閉じ、こっそりカバンに入れた。

「ミコト、大丈夫ですか!?」

 イツキが駆け寄り、助け起こしてくれた。
 うーわ…この所為でバフ掛けの無駄なタイムロスしたんじゃ…と罪悪感が……。

「へーき!だからいっつーは早くエンチャントの続きをだな…」

「あとは零夜だけなんですけど…間に合うかどうか…」

 そう言った瞬間、ガチャ、とドアが開いた。

 
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