04 #THE END
「…でも冷静に考えるとなんで死骸の写真なんだろうね」
「知らぬ…我もう知らぬ…きっと特殊性癖をお持ちなんだよきっと……」
「口調変わってるよ」
『あっはっは、口調変えてるくらいの余裕あるなら大丈夫でしょ、みーちゃん。今ちょっと混乱してるくらいで』
混乱している、というよりは一周回ってキレそうなんですが。
「私、理解したよ……人体実験とかそういうのに手を出してる輩は何もかもまともじゃねーなコレ…って」
「でしょう!?だからこそ粛清を」
『はいはい。つっきーを煽るなみーちゃん。』
二人とも落ち着け、と言わんばかりにミイヤが使ったのだろうか、バチリと静電気が起きた様な軽い衝撃を受けた。
「に゛ゃっ」
「いてっ」
『落ち着いた?この部屋の研究者が来るかもしれないんだから茶番なんてしてる暇ないんだよ』
「ぐう正論すぎて何も言い返せない。」
さらには背後からバチバチという音がする。
恐る恐る振り返ると、目を見開き、明らかに怒っている表情をした零夜が無言で手にプラズマを浮かべていた。
…真面目にやれってことですねわかります。
「一応弁解として言うけど、真面目にやっててあの精神的ブラクラ食らったんだからね…?そこは許して欲しいのですが首脳様」
「そこは責めないよ。そこは、ね」
「ウィッス」
要はその後のやり取りでイツキを煽ったことですねわかりますとも!と心の中で叫び、大人しく探索に戻ることにした。
…で、先程写真にビビッてまともに見ていなかった引き出しの中を探る。
写真があったところの下にファイルやら資料やらが出てくる。それらを大雑把に確認していく。
研究内容や実験結果。印刷された文字が並んでいるレポートのような物ばかり。…当然と言えばそうなのだろうけど。
(さっきから見つかるの、数年前のやつばかりだ…。今回の一件の実験レポートとかないのかな……)
ガサガサと漁っていくと、クリップで数枚纏められているルーズリーフが見えた。今までのような、印刷された物ではない。
何が書かれてるんだろうと思いながら手に取る。
タイトルと思われる場所に書かれていたのは……
──殺人ウイルス「Homunculus Murder」通称H・M
「………は?」
殺人…ウイルス……??
ドクンと心臓が大きく脈打つ。見るのが怖い。怖いけれど……
(これは飛んでもないアタリ引いたのかもしれない──!)
震える手を抑えつつ、それを読み進める。
───
ここのホムンクルス達は、一種の不死性を持っている。
五体満足の状態で「死亡」した場合のみ、蘇生が可能になっている。
五体の一部でも欠けて「死亡」した場合は蘇生は出来ずに本当に死亡する。
…とは言うが、頭でも落とされない限りは失った部分を再生出来る程の異常な治癒能力はあるようだ。
それらの影響か、ホムンクルスには薬が若干効きづらい傾向がある。
別の薬学研究者が即効性のある媚薬を盛ったと言っていたが、効果が出たのは早くて数時間後、遅くて1日経ってからだという。
これ以外にも、即効性のある薬が遅れて効果が出てくる、という報告はいくつも聞いている。中には普通に即効性のある薬が効いたというパターンがあるようだが、原因は解明されていない。
一説では、自分自身で薬がすぐに効くかどうかをコントロールしているのではないかという考察も上がっているが、不明だ。
薬への耐性、異常な回復力。実に興味深い。
このホムンクルスを模す大本の「オリジナル」達の存在も実に興味深いのだが、それをこうして現実に、目の前に模して造られた実験動物を被検体として扱えるのは研究者冥利に尽きる。
なのに何故、この実験動物を自由に使わないのだろうか。
ここに入る時に「かつて『オリジナル』達から自分達を模したホムンクルス達の扱いで一悶着あった」と聞いた。それ以降、実験内容の大幅な見直し等が行われたという。
そんなものを恐れているなんて、研究者としてどうにかしている。
大した叛乱ではないだろうに。実験動物がこちらに牙を剥くことはあれど、対策さえしていれば然程問題ない。
───
持つ手が震える。
恐怖からではない。怒りだ。
きっとイツキが見たらすぐに燃やすレベルの内容だろう。
だけど、もしかしたらここに情報があるかもしれない。だからイツキには見せられない。
一度深呼吸をし、もう一度読み進めていく。
…ホムンクルス達を見下す内容は見たくなかったので読み飛ばした。