01 遭遇
◇
「昨日までは何ともなかったのに、どうして……」
ヒサメが、目覚めない。
「どうして、なんですか……」
デルミンが今にも泣きそうな顔をして、オニギリクママンのぬいぐるみをギュっと抱く。
「…シャレになんねーぞ、コレ」
13が声のトーンを一つ落としてそう言った。
「どんどん弱ってきてやがる。持って1週間から数日ってレベルだ」
「…それは、死神として見て、かな?」
「そーだよ。…昨日までは何ともなかったのによ、たった一晩でここまでになるって聞いてねーぞ?」
マスクで全部の表情を窺えないが、目元だけは、何処か悲しそうで、それでいて怒っているように見えた。
「…そう」
「おい零夜、Voidollの許可はどうなったんだ?」
「まだ下りない。…こうなってからじゃ、遅いっていうのに…!」
思わず手に力を籠める。
いくつか観測した世界線。
・目の前で倒れて、そのまま亡くなってしまう。
・日に日に弱っていき、ある日突然息をしていない状態を発見。
・実験施設から、彼女が帰ってくることがなかった。
その他も、彼女が助からないものばかり。
こうならないように、動いてきたつもりだ。
なのに、どうして──
まるで、この世界線は袋小路にでも、追い詰められた…俗に言う「詰んだ」世界線とでもいうのだろうか?
【僕】らがどう足掻いても、ヒサメは助けられないという、世界線に来てしまったというのだろうか?
(…そういう可能性もある、否定は出来ないだろう。けれど、それを許容し難い)
……こう考える【僕】は、オカシイのだろうか?【我々】とは違うのだろうか?
背後に13とデルミン以外の気配を感じる。
視線をそちらに向ければ、Voidollがそこにいた。
「……アノ、零夜サン」
「あ、Voidollさん…」
「オイ、カタコトマシーン!!来るのおっせーんだよ!!何してたんだ!」
「異物ハ黙ッテイテクダサイ。発射」
そう言って近距離吹き飛ばしのカードで13が吹き飛ばされた。…管理者権限でカードを使用したのだろう。デルミンが驚いて固まる。
ジト目の呆れた表情をしながら13を見ていたが、こちらに向き直ると一瞬だけ悲しそうな表情をし、すぐに「通常」の表情に戻る。
「成ル程。オッシャッテイタコトハ事実ダッタノデスネ。」
「…こうなって欲しくなかったんだけども、ね」
「ソレハ申シ訳アリマセン。…今更デスガ、アナタガ出シタ条件ト、ソノ他ノ許可ヲシマス。」
──大幅遅れだが、Voidollの許可が、降りた。
もしかしたら手遅れなのかもしれない。
それでも、何処まで足掻けるのかわからないけれど。
ただ唯一、観測してきた中に、居なかったイレギュラーがこの世界線に現れた。
それが、救いの一手になるのならば
【僕】はそれを最大限に利用しよう──
◇