01 遭遇


 *

 やだなぁ、感情がざわめくのを抑えられない。

 だからなのだろうか、公安から逃げる時にでも、乱雑な方法は取ったことがないのに、こんな行動をしたのは。

 ミコトを人質に取って、イツキを脅す。

 けれど思ったよりイツキは怯む様子はない。それどころか、どうやって反撃しようとこちらを窺っているように見える。

(選択を間違えたか……)

 今の【僕】が、選択を間違えるという行為はあまり許されるものではない。さすがに焦りを覚える。

(でもどうにかして、彼らの本来の世界線へ行かなければ。)

 やはり外に出るにはある程度の制限を受ける羽目になった。
 …それでも特殊な許可を得たとはいえ、“オリジナル”の【僕】には劣る。故に時間軸を大幅に超える世界線への移動が出来ない。だから彼らの本来の世界線へ行き…タイムマシンの利用を試みるしかない。

 そうでもしないと、プレイヤーあの子は──

 ふと、腕を掴まれる感覚。ミコトが反撃をしようとしているのだろうか。でもその程度じゃ……

「──友達になってッ!!」

 は?と思うより先にバチン、と無理矢理向こうから「繋げられた」感覚。チャネリングとは異なる感覚だ。一体何をしたんだ、彼女は…!

「っなに、を」

「『れーや君、手を離して』!」

 …一体何を言ってるのだろうか。

「そんなことするわけが…──あ…?!」

 言われた通り離すわけがない、ハズなのに。
 【僕】の腕は自分の意思とは異なる動きをし、彼女の拘束を解いてしまった。

(何故、どうして、こんなことが…!?)

 原因は先程の『無理矢理向こうから「繋げられた」感覚』なのだろう。ならば、どうにかしてこの繋がりを絶たなければ…

「イツキ!れーや君を拘束して!」

「…了解です!」

 しまった、と思った時には既にイツキに捕まってしまった。

(仕方がない、あまり使いたくは無かったんだけどね)

 周囲にプラズマを集める。本来、コンパスの世界ではダッシュ中に纏っていたモノだ。
 それでもイツキは怯む様子がない。…一体なんなんだ、彼は…。

「…おやすみなさいっ!!」

 完全にイツキに注意が向けられており、ミコトからずっと逸らしていた。
 その結果、また謎の言葉に疑問を覚えながらも反応が遅れてしまったと実感する。

 目の前に、プラズマで出来た人一人覆える大きさのキューブが迫っていた。

「今度は何だ…ッ」

 確かにぶつかり、それは【僕】を包んだかと思えばフッと消えた。何だったのか、と思うと同時に急激な睡魔に襲われる。

 なんだこれは、耐えられない……。抵抗すればするほど、睡魔がどんどん強くなっていく。
 立っていられなくなり、イツキに背を預けてしまう。ミコトとイツキが何か会話していたが、そちらに意識を向けることが出来ない。向けたら、このまま眠ってしまいそうだ。

「ミ…コト……【君】は…」

 一体何者なんだ。
 その意味が伝わったのか、ニッと笑いながら答えた。

「ハッカーS級能力者。聞いただけなら、ネットとかそういった方のハッカーを想像するでしょう?確かにそれも出来なくはないよ~。でもそれ以上に……生体ハッキングも得意なんだ」

 生体ハッキング、だって?

 じゃあ、あの『無理矢理向こうから「繋げられた」感覚』も、ハッキングということか…?

「……そんな、のうりょく…だなん、て……」

 かつてコンパスの世界で暴れたのはイツキだけ。ミコトは特に何もしていなかった。だからこそ彼女はこれと言って警戒する必要はなさそうだと、考えていた。
 ……その時点で、【僕】は、選択を………

(だめだ、意識が)

 もたない──

 
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