01 遭遇
「人に物事を頼むのに、人質を取るのが流儀なんですか?」
「………【僕】だって、本当はこんなことはしたくない。だけど、もう時間がない。タイムマシンも、君達が自由に使えるわけではないんだろう?それなら、こうするしかない」
「…成る程、だから人質を取って、脅して使うという方法ですか」
まあ、悪くはないんじゃないんですかね、とイツキが笑顔を張り付ける。
うん、まずい、そろそろ抑えが効かなくなりそうな予感…!
逆転の一手。なくはないがほぼイチかバチかではある。
こちらもあまりこの方法は取りたくなかった、でもこうされている以上、お互い様ってことで…!
「うーん…なかなか怖い発想だ、ねっっ!!」
拘束している腕を逆に無理矢理グッと掴む。私が小さな反撃してきた、と思ったのかまた力を籠められそうになる。
「──友達になってッ!!」
ハッキングワン、発動。
バチン、とハッキングが成功した感覚。よし、これならば。
「っなに、を」
「『れーや君、手を離して』!」
これは、強制命令だ。マッドストライフ.xのアレンジ技。
本来はハッキングした相手を操り、自傷あるいは同士討ちをさせる為のスキル。さすがに相手が相手なので、命令だけで留める。
「そんなことするわけが…──あ…?!」
零夜の拘束が解かれる。すんなりと「命令通り」手を離した。
自分の意思とは異なる行動に、困惑しているようだ。
「イツキ!れーや君を拘束して!」
「…了解です!」
今度はイツキが零夜を拘束する。抵抗しようと周囲にプラズマが集まっていく。しかしイツキはそれに怯むことはなく、拘束を緩めることはしない。
でもコレ、ダメージは確実に行ってるだろうなぁ…。うーむ…。
「にゃ~…」
くるり、と指先に集中させる。小さなキューブ上のプラズマがいくつも集まり、まずは手の平大の大きさに。そこからさらに大きく、人一人が包めるレベルの大きさにまで調整する。
「…おやすみなさいっ!!」
スリープオール。相手を眠りに落とす、デバフ系のスキル。
ソレを、そのまま零夜に向かって投げる。いきなりデカいキューブを投げてくるのだからか、抵抗を一瞬やめた。
イツキに拘束されたまま、そのキューブは零夜を覆う。
「今度は何だ…ッ」
「あれ、失敗?調整ミスったのかなぁ…。」
「うーん、多分違う。効いてはいるみたいだよ」
イツキの言う通り、だんだん身体に力が入らなくなってきたのだろう、既にイツキの方に身体を預けている。
けれどギリギリの所で起きている、という感じだ。持ってあと数十秒、といったところかな?
「ミ…コト……【君】は…」
「ハッカーS級能力者。聞いただけなら、ネットとかそういった方のハッカーを想像するでしょう?確かにそれも出来なくはないよ~。でもそれ以上に……生体ハッキングも得意なんだ」
味方の援護として使う能力上昇の書き換えも。
敵に対してバラ撒くバステ系も。
全て、脳と身体をハッキングしているのだ。
「……そんな、のうりょく…だなん、て……」
かくん、と首を折るようにして頭を垂れる。近づいてみれば寝息が聞こえてくる。
「おし、成功したわ」
「……はーーーーーー…さすがに心臓に悪いですよ…」
緊張の糸が解れたというように、イツキが溜め息を吐く。
「いやー…まさか人質に取られるとか思わねーじゃん…?」
「もう少し危機感を持ってくださいよ……もー…」