01 遭遇
──路地裏
どうやらイツキも何か見えたらしい。ソレが見えた方へ向かってみると…何もいない。何の変哲もない、ただの路地裏だ。
「んー…見間違いだったのかな」
「二人同時に見間違いとかあり得るんですかね…。何処ぞの帝竜の幻覚じゃあるまいし」
「やめろいっつーインソムニアはトラウマなんだ」
イツキは軽口のつもりだったのだろうけど、今も思い出すだけで頭が痛くなる。親しい人達からの罵詈雑言ならまだよかったのに、「この人は絶対に言わないこと」や「心の何処かで思っていたネガティブなこと」を次々と言われて、私達の精神を確実に擦り減らしにやって来た。…たとえ幻覚だったとしても、二度と見たくはない光景だ。
…イツキも同じ攻撃を受けたはずなのに、どうしてこうも違うのだろう、と思ったけどそうか…当時は人間性が比較的マシになったとはいえ、まだまだ未熟な状態で見せられたから、私達程のダメージは受けていないのか…。何それちょっとだけ羨ましいような…。
「…念の為にもう少し詳しく周囲を調べてみる?」
「そうだねー…」
ただ、S級能力者二人の同時見間違いとか、さすがにヘンだと思う。なのでもう一度周囲を調べようとキーボードを出現させようとした、その時。
──こちらを狙っている、殺気。
「ミコトッ!!」
「チッ!バックアタックとか卑怯な…!」
周囲に気を向けていた所為で一瞬反応が遅れ、こちらを狙っていた狼型のマモノ・ウルヴァリンがこちらに襲い掛かってくる。
一発食らうくらいなら、多少は問題ないはず、と覚悟をする。痛いのは嫌だけど、こういうのばかりは仕方がない…!腹括れ私!!
「──粉々に消えてくれ」
突然、ルーン文字が現れ、バチバチと球体状の雷が連続でマモノを襲う。その衝撃とダメージに対応できずに、ウルヴァリンは転倒した。
「飛べ」
再びルーン文字が刻まれ、電撃がマモノに叩き込まれる。ルーンはそのまま素早くいくつも刻まれ、その数だけ雷撃が繰り出される。
「開け。まだだ、焦がせ──」
何回マモノに攻撃が当たったのだろうか。元よりそこまで強くない(比較対象がどうもドラゴンになってしまいがちだけどね…)のもあってか、数発食らうとウルヴァリンは倒れて動かなくなった。…既にじわじわと消滅を始めている。そのうち消えるだろう。
というか、そんなことより……──
「なんでキミがここに?」
見覚えのあるネオングリーンと黒のカジュアルな服装。黒い髪に異様に白い肌。
青年と目が合う。死んだような目を思わせる緑色の目とポーカーフェイス。
間違いない。零夜だ。