01 遭遇
──西暦2020年某月某日、東京
「タピオカ美味しい」
しみじみと率直な感想を口に出す。
あえてミルクティーではなく黒糖ミルクにした。黒糖ミルクも美味いじゃん…。黒糖も甘すぎずちょうどいい甘さで、タピオカももっちりしていて美味しい……。
この2020年前後、妙にタピオカ流行ってたよな…、と思い出し、ふと飲みたくなった。なのでミイヤに過去に飛ばして欲しいと頼んでみたらあっさりOKが出た。
なんなら2020年の、竜災害が書き換わった代わりに起きたという大災害が「起きなかった」平和な世界線にな!←
それでもやっぱり、マモノはいるみたいだし、それを対処する為にムラクモ機関も存在し──その時代を生きている「私達」もそこにいるようだったが。
「確かに美味しいけどさ、タピオカってカエルの卵みたいだよね」
同じく一緒に来たイツキが手にしたカップをじーっと見ながら言う。ちなみにイツキは抹茶ミルクにしている。
「あー…否定はしない」
「それにカロリーも凄いんだっけ。確か「やめていっつー!今は忘れたいからーーー!」えー…」
イツキに呆れられた目線を向けられたが気にしない。
勿論知ってますとも…タピオカミルクティー1杯がラーメンと同じくらいとか…!これ黒糖だけど!高いのは間違いないんだろうけど!
全力の現実逃避をしていると、街中にアラートが鳴り響いた。
『警告、○○区にマモノが侵入、マモノが侵入。一般の方は速やかに避難して下さい。繰り返す…』
レイナが書き換えた事により、ドラゴンはいなくなったものの、マモノは依然そのままだ。下手な野生動物より危険というのも変わらない。故にムラクモ機関や自衛隊が街に侵入したマモノを対処する、というのが時々起きている。これは2100年の方でも変わらない。
「あれまー…マモノ出たのか、多分この時代に生きてる私らも討伐参加してるんだろーなぁ」
「他人事みたいに言うんだね、ミコト」
「だってそーでしょー?2100年の時代から来た私達は実質この時代の異物だもん。下手に干渉して歴史が変わったとかやりたくないし」
「…まぁ、そういう所は否定しませんがね」
実際「かつての世界」でアトランティスの時代にレイナ達がニアラを倒した。
その結果、本来2020年の竜災害の元凶もニアラだったのだが、別の真竜を倒したということに変わっていた。ルシェ族の辻褄は合わせることが出来ても、倒したドラゴンの部分まではどうにもならなかった、という経験があるわけで、本当に歴史に変化を及ぼさない程度の行動しかしたくない、というのが本音だ。
「まぁ、それでも……もしマモノの討ち漏らしとかがいたのなら、自己防衛くらいの対応はするけどねー」
「…それ、ほとんどボクが対処することになりそう」
「だいじょーぶ、サポートは万全にしますからぁ!」
えへん!と胸を張って言い返すが、イツキは苦笑している。
残ったタピオカを一つ残らず啜り終え、近くのごみ箱に捨てた。周りには人の気配がほとんどない。アラートもあったし、ほとんどの人が避難したのだろう。
「ま、いっつーも早く~!一応一般市民ノフリして避難しよーぜー」
「わかってますよー」
マモノ警報が鳴っているというのに、傍から見ればあまりにも呑気な会話に見えるのだろう。そんな緩やかなやり取りをしながら、その場を後にしようとして
「………ん?」
何か、今、見えたような。