00 前日談
いや本当、通常運転だなぁとは思ったが…若干零夜の表情は暗い。…やっぱり何かあるんじゃ…と思っていると、急にヒサメが零夜に抱き着いた。
あらぁ…とニヨニヨしようと思ったがすぐにやめた。…ヒサメの顔色が真っ青だったからだ。明らかに尋常じゃない。
「ひーちゃん、大丈夫…?」
「………っ」
私の問いには答えず、代わりに零夜の服をギュッと掴む。…大丈夫じゃないな、これ。それに…何か……
(怯えてる…?)
僅かに身体は震えてる。気に掛けるようにデルミンが彼女の背中を擦っている。
ヒサメの近くにスマホが落ちており、それを13が拾い上げる。画面はついたままだったのか、しばらく見ていた。が、良からぬ事でも映っていたのだろうか、13は顔をしかめた。そしてそのスマホを零夜に見せる。
「………」
無言だったが、同じ様に零夜も顔をしかめる。…何かあったのか、その画面が気になるが、状況的に声に出し辛い。
「何があったんですか?」
と思ったらドストレートにイツキが聞いていた。わぁ…すげーないっつー…と別の意味で関心していると「…同類が、」とヒサメが口を開いた。
「同類の、ホムンクルスが…亡くなった……」
それを聞いてイツキが固まる。表情もこわばり、「死因は?」とまたストレートに問いかける。
「……わからない、ただ、何かの実験か投薬されたかも…」
「………へぇ」
“実験”と聞いてイツキからどんどん表情が、人間らしさが抜け落ちていくような気がした。あーこれはイツキの地雷踏んだ内容の話だわ…落ち着かせないと突飛な行動しかねないな…。
「あー…その、いっつー…いやイツキ、キミの怒りはごもっともだけどね?ここは冷静に……」
ホラホラ、深呼吸をして?とイツキの背をポンポンと軽く叩く。
「……わかりました」
一つ深呼吸をして、少しだけ落ち着いたみたいだ。それでもまだ、イツキの表情は何処か人間らしさを感じられない。
「えーと、つまり?ひーちゃんと同類のホムンクルスが亡くなったからそんな風に「20人」…なんですと?」
話しをまとめようとしていると13が途中で口を挟む。…今、何と…?
「20人。今週に入って死んじまった大将の同胞の数だ。」
今度は私が固まる番だ。今週に入って20人?日付を確認すればまだ週の半ばだ。なのにもう20人ものホムンクルスが…?
「先週までは一週間のうち5人未満の死者が出た。ここ数年は、過激な実験を行っていない状態だったから、死者なんて出るハズがないんだよ。」
続けて零夜がそう答える。怯えてしがみついているヒサメの頭を撫でながら、「おかしいだろう?」と私達を見た。
「…うん、それは、確かに異常だよね」
近年は過激な実験を行っていない=死者がほとんど出ない、というのはわかる。
だが比較的最近になってから、また死者がぽつぽつと出始め、週の半ばまできた今週に20人という死者が出た。
明らかに、ヒサメのいる実験施設で何かが起きたのは間違いない。