00 前日談


「そろそろ離してあげたら?困っているみたいだよ」

 そう言ってイツキの手を掴み、そっと引き剥がした人物が一人。

「零夜…」

 ヒサメが彼を見るとパッと表情を少しだけ明るくなる。…もし犬の耳としっぽがあったとするのならピンと耳を立てて、しっぽを揺らしまくっているんじゃないかなぁ…と思う程、わかりやすい反応。
 一方イツキは…何故か固まっていた。どうしたんだろう…

「なんだろう…孫に嫌われた気分……!」

 ……言わずもがな、聞いてズッコケました。

「おじいちゃんか!いや、おじいちゃんだったわ!(実年齢が)」

「マジで爺さんムーブしてたのかよ!?」

 思わず突っ込めば13も同じようにツッコミを入れる。デルミンちゃんはジト目で呆れてるし、零夜もヒサメとイツキを交互に見てから溜め息を吐いていた。

「甘やかし過ぎは良くないと思うけど」

「う……」

 零夜の一言にイツキが若干涙目になる。いや、どんだけだよイツキ…
 露骨にしょんぼりしているのを見た所為か、ヒサメが近づき「あの、」とイツキに声をかける。

「私は、大丈夫です……。心配してくれてありがとう…ございます」

 困った様に笑い掛けると、イツキはガバッと身を起こしヒサメを撫でる為に抱き着こう(多分孫を可愛がるおじいちゃん的感覚)とした…が、零夜が目が描かれたスケートボード…エイワズをイツキの身体に叩きつけた。

「ぐぇっ」

「…ごめん、条件反射でつい」

 ハッとしたのか、即座に謝ってきた。

「いたた…いや、こちらこそすみません…。ミユキと同じノリでやろうとしてたから……」

(そういやミユキとイツキも距離感バグってたな…どーりで既視感が……)

 そんな2人のやり取りをよそに、私は一人納得していた。

 *

 何だかんだあったが、ようやく落ち着いて話せるスペースに来た。リビングのようにテーブルとソファが置かれた場所だ。それぞれ好きな位置に座りながら談笑していると、私はふと気になったことを口にした。

「そーいや、れーや君は私達があそこでぐだぐだしてた時、何処行ってたの?」

 基本的にこちらの世界線のヒサメと零夜は距離感がバグってる。要は2人ともほぼ一緒に行動している…のと(一応)同じだ。なので会う度、ほとんど2人一緒か周辺にいるかという確率が高い。
 しかし今日は珍しく、ヒサメの傍や周辺に零夜の姿は無かったのだ。
 本当に珍しいと思ったので何気なく聞いてみれば零夜は少し考え込む。え、何…聞いちゃいけない案件だった…?

「今日は少し用事があってね……離れたく無かったけど、そうするしかなかったんだ」

 …と、特に表情を変えることなく至極当然と零夜は答えた。

「成る程〜そしてやっぱり通常運転だったわ安心した」

 
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