月光に毒される(短編集)
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【秋の味覚】
流魂街時...。
「お前、今日晩飯当番な。」
一角と弓親、二人と流魂街を旅をしていた頃、夕食は毎日当番制で三人の誰かが担当していた。
今夜は名前が作る日だった。
「ほぉ…キノコか。」
山から収穫した山菜を眺めながら一角は喉を鳴らした。
「キノコ鍋でも作るのか?」
「そんな所。」
名前が調理を始めようと籠を持った時、今まで黙っていた弓親が茶褐色のキノコに手を伸ばした。
「ねぇ、これ猛毒なんだよ?分かってて入れてるの?」
不機嫌、と言うより怒っている弓親を見て名前はキノコを見つめた。
キノコは秋になると沢山生えてきて、美味しいので特に気にすることなく食べていたが…毒キノコなんてあるのだろうか?
キノコらしき物は何でも採って食べていた名前からしたら驚くような話だ。
「これ、私はいつも食べてるけど何ともならない。」
「はぁ!?それ、本気で言ってるの?このキノコ、嘔吐、痺れ、酷いと痙攣を起こして死ぬんだよ?」
「そんなの、一度もなったことない。」
私たちの様子を見ていた一角が近づいて来て、言った。
「なら、今食ってみればいいんじゃねぇの?」
弓親は頷いてキノコを名前に渡した。
キノコを枝に刺して火に炙っていく。
「マジで食うのか?俺、前それ食って死にかけたけどな。」
「食べる前にもう少し気を付けた方が良いよ、一角。」
キノコが汗をかき始め、丁度いい焦げ目が付いた所で名前はキノコを口に入れた。
「……。」
それは至って普通のキノコの味だ。
多少苦みが強いが、木の枝に比べたら気にする程ではない。
「毒キノコ、どれぐらいで症状が出るんだ?」
「そう時間は掛からないよ。食事を終える頃には症状が出てくる。」
「ふぅん。」
暫く様子を見ていたが、私の体調に異変が起きる事は無かった。
「これ、本当に毒キノコか?似てるキノコとか。」
「僕が間違えてるって言うのかい?なら、一角食べてみてよ。」
弓親は同じキノコを一角に渡した。
先程と同様、火で炙って一角はキノコをかじった。
するとキノコを食べて時間が経たない内に、みるみる一角の顔色が悪くなってくるではないか。
「こりゃ毒キノコだ。腹痛ぇ…。」
一口食べただけでこの威力。
一角は腹を抱えるようにうずくまった。
「だから言ったでしょ。でも、何で君は毒が効かないの?」
「さぁ?…知らない。」
「何でもかんでも食うから、解毒する力を身に着けたんじゃねーの?」
一角は冗談めかして笑った。
「案外、そうかもしれない。」
「マジで!?」
弓親は納得するように頷いた。
「君は毒に耐性がある体質なんだよ。だから毒キノコや木の枝…普通僕たちが食べないような物も食べられるんだよ。」
「……。」
確かに名前は、腐った物以外は基本何でも食べることが出来た。
しかしそれは始めから食べられた訳ではない。不味い物は何度も食べて耐性を付けていった。
腹は下さなかったが、特に木の枝を食べられるようになるまで時間が掛かった。
「興味深い。これで毒があるかどうか分かれば、毒見係として素晴らしい才能を発揮するんだけどね…。」
弓親はやれやれ、と籠の中のキノコを選別し始めた。
「……。」
名前は弓親が避けた毒キノコを見つめた。
毒の有る物、無い物…判別出来るようになれば何か役に立つかもしれない。
そして自分がどこまで毒に耐性があるのか、試したくなったのも事実…。
(やってみる価値はある。)
***
「毒は入ってるか?」
「いや、この食事には含まれていない。」
「なら、殺害に使われた物は別にあるという事だな。協力ありがとう。」
暗殺部隊の隊員は名前に会釈すると、姿を消した。
隠密機動 警ら隊に所属された現在も、時折こうして暗殺部隊の捜査協力に携わることがある。
毒見…これは毒に耐性がある自分に課せられた仕事。
特異体質ゆえ、十二番隊の涅隊長にも目を付けられていた。
名前は建物の物陰から商店街に出た。
居酒屋や商店が立ち並ぶ通り、勤務を終えた死神達が酒屋で騒いでいる。
季節は秋。
居酒屋の入り口のお品書きにはサンマや銀杏、栗、キノコなど秋の味覚が入荷したことを伝えている。
山菜、特にキノコを見ると流魂街にいた頃を思い出す。
名前は緩む口元を引き締めた。
「お、こんな所にいるとは珍しいじゃねぇか。」
「お疲れ様。」
馴染みのある声を聞き振り返ると、一角と弓親が名前を見て笑っていた。
「仕事終わり?」
弓親の問いに私は答えた。
「そうね…夕餉を摂ろうと思って。」
「一人でか?…俺たちが付き合ってやんよ。」
「頼んでないけど。」
いつもながら一角の提案は強引だ。
「一人で食う飯は不味いだろ。」
「そうそう。」
二人の妙なノリに流されたまま、私たちは居酒屋に入店した。
「お、キノコ鍋あるってよ。これにするか。」
「いいよ、僕はサンマ。」
「私、銀杏も食べたい。」
「いいぜ。よし、注文するか。」
不思議なものだ。
今時、殺人で使われる毒飯は美味しく作られているが、一人で食べる食事は決まって不味い。
しかし、誰かと一緒に食べる食事はとても美味しいと思った。
「お前、機嫌良いな。」
「気のせいでしょ。」
「そう?僕の目から見てもそう映ってるよ。顔赤くなってるから。」
「ちょっと、弓親やめて…!」
私たちは秋の味覚に舌鼓した。
【秋の味覚】...end.
流魂街時...。
「お前、今日晩飯当番な。」
一角と弓親、二人と流魂街を旅をしていた頃、夕食は毎日当番制で三人の誰かが担当していた。
今夜は名前が作る日だった。
「ほぉ…キノコか。」
山から収穫した山菜を眺めながら一角は喉を鳴らした。
「キノコ鍋でも作るのか?」
「そんな所。」
名前が調理を始めようと籠を持った時、今まで黙っていた弓親が茶褐色のキノコに手を伸ばした。
「ねぇ、これ猛毒なんだよ?分かってて入れてるの?」
不機嫌、と言うより怒っている弓親を見て名前はキノコを見つめた。
キノコは秋になると沢山生えてきて、美味しいので特に気にすることなく食べていたが…毒キノコなんてあるのだろうか?
キノコらしき物は何でも採って食べていた名前からしたら驚くような話だ。
「これ、私はいつも食べてるけど何ともならない。」
「はぁ!?それ、本気で言ってるの?このキノコ、嘔吐、痺れ、酷いと痙攣を起こして死ぬんだよ?」
「そんなの、一度もなったことない。」
私たちの様子を見ていた一角が近づいて来て、言った。
「なら、今食ってみればいいんじゃねぇの?」
弓親は頷いてキノコを名前に渡した。
キノコを枝に刺して火に炙っていく。
「マジで食うのか?俺、前それ食って死にかけたけどな。」
「食べる前にもう少し気を付けた方が良いよ、一角。」
キノコが汗をかき始め、丁度いい焦げ目が付いた所で名前はキノコを口に入れた。
「……。」
それは至って普通のキノコの味だ。
多少苦みが強いが、木の枝に比べたら気にする程ではない。
「毒キノコ、どれぐらいで症状が出るんだ?」
「そう時間は掛からないよ。食事を終える頃には症状が出てくる。」
「ふぅん。」
暫く様子を見ていたが、私の体調に異変が起きる事は無かった。
「これ、本当に毒キノコか?似てるキノコとか。」
「僕が間違えてるって言うのかい?なら、一角食べてみてよ。」
弓親は同じキノコを一角に渡した。
先程と同様、火で炙って一角はキノコをかじった。
するとキノコを食べて時間が経たない内に、みるみる一角の顔色が悪くなってくるではないか。
「こりゃ毒キノコだ。腹痛ぇ…。」
一口食べただけでこの威力。
一角は腹を抱えるようにうずくまった。
「だから言ったでしょ。でも、何で君は毒が効かないの?」
「さぁ?…知らない。」
「何でもかんでも食うから、解毒する力を身に着けたんじゃねーの?」
一角は冗談めかして笑った。
「案外、そうかもしれない。」
「マジで!?」
弓親は納得するように頷いた。
「君は毒に耐性がある体質なんだよ。だから毒キノコや木の枝…普通僕たちが食べないような物も食べられるんだよ。」
「……。」
確かに名前は、腐った物以外は基本何でも食べることが出来た。
しかしそれは始めから食べられた訳ではない。不味い物は何度も食べて耐性を付けていった。
腹は下さなかったが、特に木の枝を食べられるようになるまで時間が掛かった。
「興味深い。これで毒があるかどうか分かれば、毒見係として素晴らしい才能を発揮するんだけどね…。」
弓親はやれやれ、と籠の中のキノコを選別し始めた。
「……。」
名前は弓親が避けた毒キノコを見つめた。
毒の有る物、無い物…判別出来るようになれば何か役に立つかもしれない。
そして自分がどこまで毒に耐性があるのか、試したくなったのも事実…。
(やってみる価値はある。)
***
「毒は入ってるか?」
「いや、この食事には含まれていない。」
「なら、殺害に使われた物は別にあるという事だな。協力ありがとう。」
暗殺部隊の隊員は名前に会釈すると、姿を消した。
隠密機動 警ら隊に所属された現在も、時折こうして暗殺部隊の捜査協力に携わることがある。
毒見…これは毒に耐性がある自分に課せられた仕事。
特異体質ゆえ、十二番隊の涅隊長にも目を付けられていた。
名前は建物の物陰から商店街に出た。
居酒屋や商店が立ち並ぶ通り、勤務を終えた死神達が酒屋で騒いでいる。
季節は秋。
居酒屋の入り口のお品書きにはサンマや銀杏、栗、キノコなど秋の味覚が入荷したことを伝えている。
山菜、特にキノコを見ると流魂街にいた頃を思い出す。
名前は緩む口元を引き締めた。
「お、こんな所にいるとは珍しいじゃねぇか。」
「お疲れ様。」
馴染みのある声を聞き振り返ると、一角と弓親が名前を見て笑っていた。
「仕事終わり?」
弓親の問いに私は答えた。
「そうね…夕餉を摂ろうと思って。」
「一人でか?…俺たちが付き合ってやんよ。」
「頼んでないけど。」
いつもながら一角の提案は強引だ。
「一人で食う飯は不味いだろ。」
「そうそう。」
二人の妙なノリに流されたまま、私たちは居酒屋に入店した。
「お、キノコ鍋あるってよ。これにするか。」
「いいよ、僕はサンマ。」
「私、銀杏も食べたい。」
「いいぜ。よし、注文するか。」
不思議なものだ。
今時、殺人で使われる毒飯は美味しく作られているが、一人で食べる食事は決まって不味い。
しかし、誰かと一緒に食べる食事はとても美味しいと思った。
「お前、機嫌良いな。」
「気のせいでしょ。」
「そう?僕の目から見てもそう映ってるよ。顔赤くなってるから。」
「ちょっと、弓親やめて…!」
私たちは秋の味覚に舌鼓した。
【秋の味覚】...end.