ディスシーンと青色
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その日もいつもと変わらずに、カイヤナイトはパートナーのパパラチアと学校周辺の見回りをしていた。
昨日と打って変わって、厚い雲が太陽を遮ろうとしている空は、不安定な身体を持つ相棒にとって好ましいものではない。早めに巡回を切り上げて、2人は学校に戻ろうとしていた。
「おっと、曇ってきたな。パパラチア、切り上げよう。」
「そうだな、うん…予兆黒点も無いし、いいと思う。」
そうして、何事も無く学校に帰還した2人は、指導者である先生への報告を済ませた後、思い思いのことをして残りの時間を潰した。
カイヤナイトが学校の廊下を歩いていると、そろそろ冬支度を始めなければいけないと、麻布をかき集め始めているレッドベリルが、冬服のモデルを依頼してくる。
「あっ、センパイ!いま暇?ちょっとモデルしてくれません?ここの袖の通りを確認したいんだけど…」
「ああ、別に構わないが…まったく、お前がファッションに目覚めてから、俺たちも華やかになったもんだ。」
「えへへ…でも、僕にも仕事としての責任がありますから!やるからには、バリバリやらないと!」
レッドベリルは宝石達のファッションリーダーとして、生まれてから今まで、持ち前のセンスを発揮してきている。毎年全員の制服を新調し、冬眠用の冬服までも毎年1着ずつ作りあげている。そういった他の仲間達には無い才能を持つ彼は、一目置かれている。
新入りの教育係を務めるカイヤナイトにとっても、役に立つのは戦闘の才能だけではない、という良い例になる彼は、感心する存在である。
「おう、没頭し過ぎて倒れるなよ。今年の新作も楽しみにしてるからな。」
そして、レッドベリルの試行錯誤に付き合うこと数時間。学校に戻った時には、南の空に浮かんでいた陽が、傾きつつあった。
「よし!完璧っ!ありがとうございました、センパイ!」
「いいってことよ。じゃ、俺は図書室に行ってくるよ。」
思い通りの結果が得られたことを喜ぶ弟を背後に、頭になんとも可愛いフリフリを付けたカイヤナイトはアトリエを後にした。
目的地は図書室だ。もっとも、カイヤナイトが用があるのは、別に図書室の膨大な蔵書たちではなく、管理担当として連日図書室に入り浸っているラピスラズリの方である。
「おーい、ラピス!居るんだろ?」
膨大な情報たちがよく整頓されている部屋の前に立ち、カイヤナイトはその名前を呼んだ。
「…おや、カイヤ兄さん。僕に何か用かな? 」
少し間を空けてから、本棚の陰より瑠璃色の長髪がさらりと揺れた。しかし、その持ち主はは声の方へは振り向かずに、そうとだけ言って、本棚の陰に戻っていく。
「何って、こないだのアレだよ。約束しただろ? 」
「ああ、アレだね。覚えているとも。…また負けに来たのかな? 全く、懲りない人だ…。」
「なんだと」
「ハハ、冗談! 実を言うと前回はちょっと危なかったよ。まあ、勝ったんだけどね。」
2人のいう「アレ」とは、暇を持て余した宝石たち&先生によって考案された数々の「ボードゲーム」のことである。丈夫な紙の切れ端を使ったトランプや、カルタなどのシンプルで奥深い遊びのものが主だ。だが、それだけでは物足りなくなった一部の者により、新たなゲームが密かに創り出されようとしていた。
「よし、並べるぞ…。そういえば、今日はゴースト居ないんだな。珍しい。」
机の上に手際よく様々な駒を並べながら、カイヤナイトはラピスラズリにそう尋ねる。長期休養所の管理と、図書室の管理補佐を任されている彼が図書室 に居ないのは、稀なことなのだ。
「彼ならさっき、記録用の用紙が切れているのに気付いて、僕の代わりにと、ペリドットの所へ行ったよ。」
「…仕事熱心だなぁ、あいつ。」
「…誰かさんと違って、かい?」
ラピスラズリはそう言うと、自身の髪を左手で搔き上げる。格子の隙間からから差し込む光で、より強く瑠璃色の髪が輝いた。
「まさか!…お前のも立派な仕事のうちだろ?考えるってのは案外難しい。…おっと、ナイトを北東に1歩だ。」
「なるほど。それは確かに一理あるね。僕にしか思考出来ない事柄もあるだろうし……ビショップを西へ。」
図書室には、石の駒によって奏でられる一定のリズムが次々と反響している。
「ラピスは昔から不思議ちゃんだったもんなぁ。みんなが気付かないことに次々気付く。…疲れないのか?」
「そうかな。でも…もう慣れたよ。僕の考えでは、才能というものは、必ず対価が必要になる。…ところで、カイヤ兄さん。本当にそこで良いのかな?」
「…惑わそうったって無駄だぞ。俺も学習してるんだからな。…クイーンを北へ2歩。」
カイヤナイトの決断に、ラピスラズリは薄く笑みを浮かべる。そして、軽やかな動きで一手。ひとつの駒を動かした。
「フフ、貴方はやはり素直な人だ。カイヤナイト。…チェックメイト。実に惜しかったね、良い勝負だったよ。ありがとう。」
「…はああ、ウッソだろ……なんであの局面から勝てんだよ!なんで負けたんだ俺!」
「なんでだろうね?よく考えてみればいいさ。いつでも勝負は受けて立つよ。」
「むむ……覚えてろよ。今月中に絶対負かすからな!」
慣れた手付きで道具を片付けるやいなや、そう捨て台詞を残してカイヤナイトは図書室を早足で出て行く。この一戦が終わる頃には、いつの間にやら陽は沈み、クラゲたちが校内を照らしている。周りはすっかり夜になっていた。
その兄の後ろ姿を見送ったラピスラズリは、小さく欠伸を漏らしてから、自室へと歩き出した。
(うーん、これじゃあ彼に今月中に看破されそうだ。新しい戦術を考えなくては。)
そしてまた、なんでもない日が終わっていくのであった。
昨日と打って変わって、厚い雲が太陽を遮ろうとしている空は、不安定な身体を持つ相棒にとって好ましいものではない。早めに巡回を切り上げて、2人は学校に戻ろうとしていた。
「おっと、曇ってきたな。パパラチア、切り上げよう。」
「そうだな、うん…予兆黒点も無いし、いいと思う。」
そうして、何事も無く学校に帰還した2人は、指導者である先生への報告を済ませた後、思い思いのことをして残りの時間を潰した。
カイヤナイトが学校の廊下を歩いていると、そろそろ冬支度を始めなければいけないと、麻布をかき集め始めているレッドベリルが、冬服のモデルを依頼してくる。
「あっ、センパイ!いま暇?ちょっとモデルしてくれません?ここの袖の通りを確認したいんだけど…」
「ああ、別に構わないが…まったく、お前がファッションに目覚めてから、俺たちも華やかになったもんだ。」
「えへへ…でも、僕にも仕事としての責任がありますから!やるからには、バリバリやらないと!」
レッドベリルは宝石達のファッションリーダーとして、生まれてから今まで、持ち前のセンスを発揮してきている。毎年全員の制服を新調し、冬眠用の冬服までも毎年1着ずつ作りあげている。そういった他の仲間達には無い才能を持つ彼は、一目置かれている。
新入りの教育係を務めるカイヤナイトにとっても、役に立つのは戦闘の才能だけではない、という良い例になる彼は、感心する存在である。
「おう、没頭し過ぎて倒れるなよ。今年の新作も楽しみにしてるからな。」
そして、レッドベリルの試行錯誤に付き合うこと数時間。学校に戻った時には、南の空に浮かんでいた陽が、傾きつつあった。
「よし!完璧っ!ありがとうございました、センパイ!」
「いいってことよ。じゃ、俺は図書室に行ってくるよ。」
思い通りの結果が得られたことを喜ぶ弟を背後に、頭になんとも可愛いフリフリを付けたカイヤナイトはアトリエを後にした。
目的地は図書室だ。もっとも、カイヤナイトが用があるのは、別に図書室の膨大な蔵書たちではなく、管理担当として連日図書室に入り浸っているラピスラズリの方である。
「おーい、ラピス!居るんだろ?」
膨大な情報たちがよく整頓されている部屋の前に立ち、カイヤナイトはその名前を呼んだ。
「…おや、カイヤ兄さん。僕に何か用かな? 」
少し間を空けてから、本棚の陰より瑠璃色の長髪がさらりと揺れた。しかし、その持ち主はは声の方へは振り向かずに、そうとだけ言って、本棚の陰に戻っていく。
「何って、こないだのアレだよ。約束しただろ? 」
「ああ、アレだね。覚えているとも。…また負けに来たのかな? 全く、懲りない人だ…。」
「なんだと」
「ハハ、冗談! 実を言うと前回はちょっと危なかったよ。まあ、勝ったんだけどね。」
2人のいう「アレ」とは、暇を持て余した宝石たち&先生によって考案された数々の「ボードゲーム」のことである。丈夫な紙の切れ端を使ったトランプや、カルタなどのシンプルで奥深い遊びのものが主だ。だが、それだけでは物足りなくなった一部の者により、新たなゲームが密かに創り出されようとしていた。
「よし、並べるぞ…。そういえば、今日はゴースト居ないんだな。珍しい。」
机の上に手際よく様々な駒を並べながら、カイヤナイトはラピスラズリにそう尋ねる。長期休養所の管理と、図書室の管理補佐を任されている彼が
「彼ならさっき、記録用の用紙が切れているのに気付いて、僕の代わりにと、ペリドットの所へ行ったよ。」
「…仕事熱心だなぁ、あいつ。」
「…誰かさんと違って、かい?」
ラピスラズリはそう言うと、自身の髪を左手で搔き上げる。格子の隙間からから差し込む光で、より強く瑠璃色の髪が輝いた。
「まさか!…お前のも立派な仕事のうちだろ?考えるってのは案外難しい。…おっと、ナイトを北東に1歩だ。」
「なるほど。それは確かに一理あるね。僕にしか思考出来ない事柄もあるだろうし……ビショップを西へ。」
図書室には、石の駒によって奏でられる一定のリズムが次々と反響している。
「ラピスは昔から不思議ちゃんだったもんなぁ。みんなが気付かないことに次々気付く。…疲れないのか?」
「そうかな。でも…もう慣れたよ。僕の考えでは、才能というものは、必ず対価が必要になる。…ところで、カイヤ兄さん。本当にそこで良いのかな?」
「…惑わそうったって無駄だぞ。俺も学習してるんだからな。…クイーンを北へ2歩。」
カイヤナイトの決断に、ラピスラズリは薄く笑みを浮かべる。そして、軽やかな動きで一手。ひとつの駒を動かした。
「フフ、貴方はやはり素直な人だ。カイヤナイト。…チェックメイト。実に惜しかったね、良い勝負だったよ。ありがとう。」
「…はああ、ウッソだろ……なんであの局面から勝てんだよ!なんで負けたんだ俺!」
「なんでだろうね?よく考えてみればいいさ。いつでも勝負は受けて立つよ。」
「むむ……覚えてろよ。今月中に絶対負かすからな!」
慣れた手付きで道具を片付けるやいなや、そう捨て台詞を残してカイヤナイトは図書室を早足で出て行く。この一戦が終わる頃には、いつの間にやら陽は沈み、クラゲたちが校内を照らしている。周りはすっかり夜になっていた。
その兄の後ろ姿を見送ったラピスラズリは、小さく欠伸を漏らしてから、自室へと歩き出した。
(うーん、これじゃあ彼に今月中に看破されそうだ。新しい戦術を考えなくては。)
そしてまた、なんでもない日が終わっていくのであった。