ディスシーンと青色
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「「「先生、おやすみなさい」」」
「ああ、おやすみ。よい夢を。」
「カイヤナイトも、おやすみなさい」
「冬のお仕事、がんばってね」
「おう、ちゃんと寝ろよ。おやすみ。」
それから10日後。何の問題もなく、カイヤナイトを除いた全員が予定通りに冬眠に入った。
全員が無事寝付いたのを確認してから、カイヤナイトは先生と共に冬眠室を後にした。
アンタークチサイトを起こすために、カイヤナイトは先生と別れ、ひとりで彼の部屋へと向かっていた。何気無く外に目を向けると、春とは全く様子の違う景色がある。灰色の雲で覆われた空からは、白い雪が降り続けている。これからあの雪は大地を覆い隠し、草木や虫は雪の下深くへと姿を隠して、朽ちてしまうのだろう。
(不思議なもんだ。冬が来たら生き物は死んでしまうんだな。)
不死の身体を持つ自分が、本当の「死」というものを理解するのは難しいことだと思う。ただ、こうして冬の景色を近くに感じるほどに、避けることのできない別れが付き纏う暮らしとは、果たしてどんなものだったのか。カイヤナイトは、もしかしたら遥か古代を見てきたかもしれない自身のインクルージョンにそう問いかけてみたくなる。もっとも、その疑問に彼らが応えてくれたことは1度も無いのだが。
冬が近づく度に、宝石たちの祖先だと伝えられている、「古代生物」のことを、無性に知りたくなる。
(なんでだろう。)
2980年も生きてきたが、理由はまだ分からない。これからもずっと分からないままかもしれない。
自分の靴が鳴らす硬い音だけが、静かな校内に響き渡る。
アンタークチサイトの部屋に入ると、透明で繊細な輝きが視界に飛び込んでくる。もうすでに目覚めていた
彼は、ちょうど体に白粉を叩き、着替える準備をしているところだったようだ。
「起きたか、アンターク。」
「…おはよう、カイヤナイト兄さん」
カイヤナイトがその背後に立って彼の名前を呼ぶと、落ち着きがあって、けれども確かな情熱を感じ取れる
声が、穏やかな口調で、からかうようにカイヤナイトの名前を呼んだ。
「はは、お前にそう呼ばれるのも10年ぶりだな、調子はどうだ?」
「ああ、問題ない…例年通り、万全だ。」
アンタークチサイトは、こちらをちらりと見やってからコクリと頷いた。そして、視線を再び自身の身体へと戻すと、彼はそのままテキパキと手先を動かし、あっという間に真っ白な冬服を身に纏った。
(前会った時より着替えるのが早くなってるなぁ…)
先程まで箱の縁に腰掛けていたはずだが、本当に一瞬のうちにアンタークチサイトの支度は完了してしまったらしい。そうして気を取られていると、彼は愛用の大きな鋸をしっかりと腰に差し、専用のヒールの付いた靴も一切もたつかずに履き終えている。
「…なら良かった。…準備終わった?…よし、先生のとこ行こうぜ。」
アンタークチサイトが、丈の短い手袋に右手を通そうとしたタイミングで、部屋から出ようと提案する。
「ああ、分かった。」
すぐに返事を返す彼を見れば、元々一切の皺もなく、解れの無いように保管されていた制服を、やはり一切崩さずに完璧に着こなしている。
…ひとりで行動するのが常だからだろうか、彼は仲間の中でも輪をかけて几帳面だ。
それに加えて、甘えの無い性格は年々強くなっているのかもしれない。
(まあ、仕事熱心なのはいいことだな。)
先生の元へ向かう途中に、今年の春の間にあったことを少しだけアンタークに話して聞かせた。ユークレースが新種の植物を発見したことや、パパラチアの眠っている間の治療を、ルチルに手伝ってもらうことにしたことなど、彼に話していて気付いたが、思い返せば今年も色々なことがあった。
「おはようございます、先生」
「おはよう、アンタークチサイト。体調はどうだ。」
「はっ、問題ありません。例年通り、万全であります。」
「そうか。…今年はカイヤナイトも一緒だ。困ったことがあれば、彼を頼りなさい。」
先生は、こちらを見てそう言うと、ゆっくりと1回だけ瞬きをした。先生にそう言ってもらえるのは嬉しいが、少し照れくさい。
先生の元から離れ、校内の点検をひと通り終えた後、カイヤナイトはアンタークと共に学校の外へと向かう。
実際に外を見回ってみると、まだ学校周辺はそれほど厚い雪に覆われている訳ではないが、アンタークチサイトが完全に固まる頃には流氷たちも姿を現してくるはずだ。あと少しすれば毎日忙しくなるだろう。
「よし、異常無し、だな。アンターク、何からやる?」
「そうだな…まだ雪は積もっていないし、流氷も小さい。私の身体もまだ安全な硬度に達していない。…なるべく破損しないものがいいか…」
顎に手を当て、アンタークチサイトは考えを巡らせているようだ。春程では無いものの、月人の襲来も晴れの日は視野に入れなくてはならない。しかし、今日のような仕事の無い日はどうするべきなのだろう。
「うーん……あ、海の底…とか行ってみるのはどうだ?まだ氷も薄いし、行けるんじゃないか。」
そういえば、アンタークチサイトの体質を思い出した。構成が水に近い彼は、他の宝石とは違って、水中を自在に泳ぐことが出来るのだ。未知の場所も多いはずの海中ならば、ただの散歩にはならないだろう。
「何の為にだ?小さいとはいえ流氷の危険もある。…そこまでの危険を冒して行く場所では…」
その提案には、アンタークチサイトはあまりいい顔をしなかった。流氷の危険性は冬の担当である彼はよく知っているだろうし、自分もそう思うのだが、なぜだろうか。名案な気がしてしまう自分がいる。
「…そりゃあ、新しい発見の為だよ!…気にならないか?海の果てに何があるのか、とか…」
「……はぁ、なら仕方ないな。もしも先生に許可を得られたら、私も同行しよう。…実を言うと、少し気になるんだ。」
「やったあ!じゃ、そういうことで。学校戻ろうぜー」
自分のワガママに付き合わせてしまうようで悪い気もするが、協力してくれるのなら、
それに越したことはない。学校へと戻るカイヤナイトの足取りは実に軽かった。
「ああ、おやすみ。よい夢を。」
「カイヤナイトも、おやすみなさい」
「冬のお仕事、がんばってね」
「おう、ちゃんと寝ろよ。おやすみ。」
それから10日後。何の問題もなく、カイヤナイトを除いた全員が予定通りに冬眠に入った。
全員が無事寝付いたのを確認してから、カイヤナイトは先生と共に冬眠室を後にした。
アンタークチサイトを起こすために、カイヤナイトは先生と別れ、ひとりで彼の部屋へと向かっていた。何気無く外に目を向けると、春とは全く様子の違う景色がある。灰色の雲で覆われた空からは、白い雪が降り続けている。これからあの雪は大地を覆い隠し、草木や虫は雪の下深くへと姿を隠して、朽ちてしまうのだろう。
(不思議なもんだ。冬が来たら生き物は死んでしまうんだな。)
不死の身体を持つ自分が、本当の「死」というものを理解するのは難しいことだと思う。ただ、こうして冬の景色を近くに感じるほどに、避けることのできない別れが付き纏う暮らしとは、果たしてどんなものだったのか。カイヤナイトは、もしかしたら遥か古代を見てきたかもしれない自身のインクルージョンにそう問いかけてみたくなる。もっとも、その疑問に彼らが応えてくれたことは1度も無いのだが。
冬が近づく度に、宝石たちの祖先だと伝えられている、「古代生物」のことを、無性に知りたくなる。
(なんでだろう。)
2980年も生きてきたが、理由はまだ分からない。これからもずっと分からないままかもしれない。
自分の靴が鳴らす硬い音だけが、静かな校内に響き渡る。
アンタークチサイトの部屋に入ると、透明で繊細な輝きが視界に飛び込んでくる。もうすでに目覚めていた
彼は、ちょうど体に白粉を叩き、着替える準備をしているところだったようだ。
「起きたか、アンターク。」
「…おはよう、カイヤナイト兄さん」
カイヤナイトがその背後に立って彼の名前を呼ぶと、落ち着きがあって、けれども確かな情熱を感じ取れる
声が、穏やかな口調で、からかうようにカイヤナイトの名前を呼んだ。
「はは、お前にそう呼ばれるのも10年ぶりだな、調子はどうだ?」
「ああ、問題ない…例年通り、万全だ。」
アンタークチサイトは、こちらをちらりと見やってからコクリと頷いた。そして、視線を再び自身の身体へと戻すと、彼はそのままテキパキと手先を動かし、あっという間に真っ白な冬服を身に纏った。
(前会った時より着替えるのが早くなってるなぁ…)
先程まで箱の縁に腰掛けていたはずだが、本当に一瞬のうちにアンタークチサイトの支度は完了してしまったらしい。そうして気を取られていると、彼は愛用の大きな鋸をしっかりと腰に差し、専用のヒールの付いた靴も一切もたつかずに履き終えている。
「…なら良かった。…準備終わった?…よし、先生のとこ行こうぜ。」
アンタークチサイトが、丈の短い手袋に右手を通そうとしたタイミングで、部屋から出ようと提案する。
「ああ、分かった。」
すぐに返事を返す彼を見れば、元々一切の皺もなく、解れの無いように保管されていた制服を、やはり一切崩さずに完璧に着こなしている。
…ひとりで行動するのが常だからだろうか、彼は仲間の中でも輪をかけて几帳面だ。
それに加えて、甘えの無い性格は年々強くなっているのかもしれない。
(まあ、仕事熱心なのはいいことだな。)
先生の元へ向かう途中に、今年の春の間にあったことを少しだけアンタークに話して聞かせた。ユークレースが新種の植物を発見したことや、パパラチアの眠っている間の治療を、ルチルに手伝ってもらうことにしたことなど、彼に話していて気付いたが、思い返せば今年も色々なことがあった。
「おはようございます、先生」
「おはよう、アンタークチサイト。体調はどうだ。」
「はっ、問題ありません。例年通り、万全であります。」
「そうか。…今年はカイヤナイトも一緒だ。困ったことがあれば、彼を頼りなさい。」
先生は、こちらを見てそう言うと、ゆっくりと1回だけ瞬きをした。先生にそう言ってもらえるのは嬉しいが、少し照れくさい。
先生の元から離れ、校内の点検をひと通り終えた後、カイヤナイトはアンタークと共に学校の外へと向かう。
実際に外を見回ってみると、まだ学校周辺はそれほど厚い雪に覆われている訳ではないが、アンタークチサイトが完全に固まる頃には流氷たちも姿を現してくるはずだ。あと少しすれば毎日忙しくなるだろう。
「よし、異常無し、だな。アンターク、何からやる?」
「そうだな…まだ雪は積もっていないし、流氷も小さい。私の身体もまだ安全な硬度に達していない。…なるべく破損しないものがいいか…」
顎に手を当て、アンタークチサイトは考えを巡らせているようだ。春程では無いものの、月人の襲来も晴れの日は視野に入れなくてはならない。しかし、今日のような仕事の無い日はどうするべきなのだろう。
「うーん……あ、海の底…とか行ってみるのはどうだ?まだ氷も薄いし、行けるんじゃないか。」
そういえば、アンタークチサイトの体質を思い出した。構成が水に近い彼は、他の宝石とは違って、水中を自在に泳ぐことが出来るのだ。未知の場所も多いはずの海中ならば、ただの散歩にはならないだろう。
「何の為にだ?小さいとはいえ流氷の危険もある。…そこまでの危険を冒して行く場所では…」
その提案には、アンタークチサイトはあまりいい顔をしなかった。流氷の危険性は冬の担当である彼はよく知っているだろうし、自分もそう思うのだが、なぜだろうか。名案な気がしてしまう自分がいる。
「…そりゃあ、新しい発見の為だよ!…気にならないか?海の果てに何があるのか、とか…」
「……はぁ、なら仕方ないな。もしも先生に許可を得られたら、私も同行しよう。…実を言うと、少し気になるんだ。」
「やったあ!じゃ、そういうことで。学校戻ろうぜー」
自分のワガママに付き合わせてしまうようで悪い気もするが、協力してくれるのなら、
それに越したことはない。学校へと戻るカイヤナイトの足取りは実に軽かった。