宝石の国短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふと、目を覚ますと、私は黒色の中に倒れ込んでいた。
広大な青色も、風に揺れる草も、アレキサンドライトの姿も無く、学校の影も見当たらない。
真っ暗で自分の身体すら見えないが、身体の様子をなんとなく確認してみる。少しも力の入らないこの脚は、先程と同じように爪先から粉々に砕けているだろうし、きっと細い木の枝の様になっているに違いない。
(うーん、こりゃひどい。)
上半身は無事だったはずなので、身体を起こそうと試みるが、どんなに力を込めてみても、両腕も腰もちっとも動く気配が無い。
(むむ、これはおかしい。…あれ)
カチッ
突然、そんな音が真っ暗な空間に響く。
そして、その音をきっかけにして、私の視界は色を取り戻す。
カチリ パキッ かちん
そこから、1番最初に私の目に映ったのは、白い壁。
学校の天井だ。
カチ、パキン カチャリ
「……ほけん…しつ…?」
私は、真っ先に思い浮かんだ場所を呟いた。その間にも無機質な石の音は鳴り止まなかったが、その中で聞き慣れた声がした。
「おや、起きました?」
「る、ルチル…あの、アレキ…は?」
目の前にいる医療担当に、恐る恐るそう訊ねると、ため息混じりの呆れ声が返ってきた。
「はぁ…安心してください、彼は無事ですよ。…全く、あなたも無茶なことしますね…」
「…ごめん」
自分の感情だけに任せて無茶をしてしまった。ただ真っ直ぐ走るくらいなら、あの時、近場で巡回していたはずのモルガとゴーシェに合流する方がよほど安全策だったろう。そうすれば、アレキを無意味に危険に晒すことも無かったのに。
「はい、脚も戻しましたよ。あなたは元々少し治りが遅いですからね、
少なくとも今夜はここで安静に…聞いてます?」
「…後悔で粉々になりそうです…もっと冷静になるべきだった。」
ルチルは、少し心配そうに私に声をかけてくれた。しかし、私は彼にそうとだけ言って、白い天井をぼんやりと見上げることしか出来なかった。
「…最善の行動だったと、私は思いますが。」
「…え」
予想外の言葉に、私は思わず治療台から身体を起こす。合理的で、仕事に関しては常に冷静な視点を持つルチルから、肯定の一言が出るとは思っていなかったのだが。
「実はあの時、あなた達2人しか学校の外には出ていなかったんですよ。ちょっと色々ありましてね。」
「……嘘じゃないよね?」
「…まさか。いくら私でも、そんな悪趣味な嘘は吐きませんよ。」
ダッ ダッ ダッ
「おや」
医療道具を片付けながら、口元に薄っすらと笑みを浮かべる名医の背後に、廊下からの忙しない足音が響いた。やたらと気迫のある音だ。嫌な予感がする。
「…噂をすればなんとやら、というヤツでしょうか。」
「ちょっ…ルチルッ、待って…」
「もうすぐ消灯時間ですから。早寝早起きは健康の基本ですよ?それでは、ごゆっくり。」
私の制止も虚しく、ルチルはササっと寝室へと掃けて行ってしまった。まったく、人の気持ちも知らないで…。
ルチルと入れ替わるように、その足音の主が視界に入り込んでくる。
やや開いた両脚。腰まで流れる爽やかな色。
そして、胸の前で組まれた両腕に、グッと下がった口角。
(き、気まずい〜…)
「あ、アレキ……その、ごめんね…?」
最善だった、と仕事一筋・効率重視のルチルが言うのなら、私の行動は間違いでは無かったのかもしれないが、私の頭の中では、安心感よりも不用意に彼を危険に晒した申し訳なさが勝っていた。
そして、恐る恐る見上げたその顔は、想像していたものとはかなり違っていた。
「…いいえ、なまえ。謝らないでちょうだい。」
見上げた先には、穏やかにそう笑うアレキサンドライトの姿があった。
「アレキ、でも……」
「嬉しかったのよ、あたし。本当に守ってくれるなんて思ってなかったもの。」
照れたようにそう言うと、彼は私の隣にそっと立った。
真っ暗な空と、彼の輝きが、夜空と星みたいで美しかった。
「すごく、かっこよかったわ…なんて、ちょっと不謹慎かしら?」
夜空を見上げて、彼はそう微笑んだ。思わず私はその光景に目を奪われてしまう。すると、不意に脚からパキ、と無機質な音が響く。
「あっ、脚が…」
「あら、治してあげましょうか?」
「え…」
心配して私に近づいてくるアレキサンドライトの表情が、仕草が、やけに幻想的で美しいものに見えたのだ。
また、パキリという音が私の中から響いてくる。
この気持ちは、なんだろう。
広大な青色も、風に揺れる草も、アレキサンドライトの姿も無く、学校の影も見当たらない。
真っ暗で自分の身体すら見えないが、身体の様子をなんとなく確認してみる。少しも力の入らないこの脚は、先程と同じように爪先から粉々に砕けているだろうし、きっと細い木の枝の様になっているに違いない。
(うーん、こりゃひどい。)
上半身は無事だったはずなので、身体を起こそうと試みるが、どんなに力を込めてみても、両腕も腰もちっとも動く気配が無い。
(むむ、これはおかしい。…あれ)
カチッ
突然、そんな音が真っ暗な空間に響く。
そして、その音をきっかけにして、私の視界は色を取り戻す。
カチリ パキッ かちん
そこから、1番最初に私の目に映ったのは、白い壁。
学校の天井だ。
カチ、パキン カチャリ
「……ほけん…しつ…?」
私は、真っ先に思い浮かんだ場所を呟いた。その間にも無機質な石の音は鳴り止まなかったが、その中で聞き慣れた声がした。
「おや、起きました?」
「る、ルチル…あの、アレキ…は?」
目の前にいる医療担当に、恐る恐るそう訊ねると、ため息混じりの呆れ声が返ってきた。
「はぁ…安心してください、彼は無事ですよ。…全く、あなたも無茶なことしますね…」
「…ごめん」
自分の感情だけに任せて無茶をしてしまった。ただ真っ直ぐ走るくらいなら、あの時、近場で巡回していたはずのモルガとゴーシェに合流する方がよほど安全策だったろう。そうすれば、アレキを無意味に危険に晒すことも無かったのに。
「はい、脚も戻しましたよ。あなたは元々少し治りが遅いですからね、
少なくとも今夜はここで安静に…聞いてます?」
「…後悔で粉々になりそうです…もっと冷静になるべきだった。」
ルチルは、少し心配そうに私に声をかけてくれた。しかし、私は彼にそうとだけ言って、白い天井をぼんやりと見上げることしか出来なかった。
「…最善の行動だったと、私は思いますが。」
「…え」
予想外の言葉に、私は思わず治療台から身体を起こす。合理的で、仕事に関しては常に冷静な視点を持つルチルから、肯定の一言が出るとは思っていなかったのだが。
「実はあの時、あなた達2人しか学校の外には出ていなかったんですよ。ちょっと色々ありましてね。」
「……嘘じゃないよね?」
「…まさか。いくら私でも、そんな悪趣味な嘘は吐きませんよ。」
ダッ ダッ ダッ
「おや」
医療道具を片付けながら、口元に薄っすらと笑みを浮かべる名医の背後に、廊下からの忙しない足音が響いた。やたらと気迫のある音だ。嫌な予感がする。
「…噂をすればなんとやら、というヤツでしょうか。」
「ちょっ…ルチルッ、待って…」
「もうすぐ消灯時間ですから。早寝早起きは健康の基本ですよ?それでは、ごゆっくり。」
私の制止も虚しく、ルチルはササっと寝室へと掃けて行ってしまった。まったく、人の気持ちも知らないで…。
ルチルと入れ替わるように、その足音の主が視界に入り込んでくる。
やや開いた両脚。腰まで流れる爽やかな色。
そして、胸の前で組まれた両腕に、グッと下がった口角。
(き、気まずい〜…)
「あ、アレキ……その、ごめんね…?」
最善だった、と仕事一筋・効率重視のルチルが言うのなら、私の行動は間違いでは無かったのかもしれないが、私の頭の中では、安心感よりも不用意に彼を危険に晒した申し訳なさが勝っていた。
そして、恐る恐る見上げたその顔は、想像していたものとはかなり違っていた。
「…いいえ、なまえ。謝らないでちょうだい。」
見上げた先には、穏やかにそう笑うアレキサンドライトの姿があった。
「アレキ、でも……」
「嬉しかったのよ、あたし。本当に守ってくれるなんて思ってなかったもの。」
照れたようにそう言うと、彼は私の隣にそっと立った。
真っ暗な空と、彼の輝きが、夜空と星みたいで美しかった。
「すごく、かっこよかったわ…なんて、ちょっと不謹慎かしら?」
夜空を見上げて、彼はそう微笑んだ。思わず私はその光景に目を奪われてしまう。すると、不意に脚からパキ、と無機質な音が響く。
「あっ、脚が…」
「あら、治してあげましょうか?」
「え…」
心配して私に近づいてくるアレキサンドライトの表情が、仕草が、やけに幻想的で美しいものに見えたのだ。
また、パキリという音が私の中から響いてくる。
この気持ちは、なんだろう。