宝石の国短編集
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「なあ、なまえ。」
よく暖房の効いた部屋。お気に入りのラジオからは、落ち着いたクラシックが流れている。
同じソファーで、隣に座っている恋人が、コーヒー片手に私の名前を呼んだ。窓ガラスの向こうには、しんしんと降り積もる雪が、町を白く染めている。
連日の仕事や、疲れる会話なんかとは無縁の、暖かくて優しいこの空間に微睡んで、安心しきっていた自分の口から、咄嗟に言葉は出なかった。しかし、彼の方に視線を向けただけでも、返事の代わりにはなったようだ。
そんな私を見て、彼はそっと微笑んだ。その少しの動きで揺れ動く、情熱的な色をした長髪は、眠気のせいだろうか。陽の光を受けた宝石のように輝いて見える。
そして、またひと口、彼はコーヒーを啜って今度こそ話し出した。
「…これは、例えばの話なんだが。明日俺が死ぬとしたら…どうする?」
その思わぬ内容に、私に覆い被さっていた眠気は、瞬時にどこかへ行ってしまった。もたれ掛かっていたソファーの肘掛けから体を起こして、彼がしっかり視界に入るように、改めて座り直す。
「…一応聞くけど…そんな予定があるとかじゃ、無いよね?」
「ああ、もちろんそんな予定は無いが……でも、興味はあるよ。お前がどんな反応するのか。」
そう言って笑い、再びカップを口元に寄せる横顔をじいっと眺めてみる。少なくとも自殺願望とか、そういった類の症状の兆候では無いことに安堵しつつ、私は彼の言う「明日恋人が死ぬ」もとい「恋人が死んでいた」という状況を想像してみることにする。
仮に、なぜか朝からパタリと連絡が途絶えている彼の自宅を訪ねたとしよう。実際に入ってみると、ベッドの上とか書斎のロッキングチェアとかに文字通り、死んだように眠る恋人がいる訳だ。少なくとも、そんな場面に直面して、救急車を呼ぶとか、警察に通報するとか、そういった冷静な判断は出来る自信がない。
それどころか、気が動転して、本当に寝ているだけかも。という決断を下しかねない。
そこから先は、やはり想像するのも心苦しい。搬送先の病院で、なんともやるせなさそうな医者の言葉を聞く事になるのだろうか。
「嫌だなあ、パパラチアが明日死んじゃうのは。…せめて1ヶ月は、心の準備をしたいかなあ。」
「はは、なるほどな。」
私の答えを聞いて、彼はまた薄く微笑みを浮かべる。数年前のこととはいえ、内臓に関わる大手術をした経験のある恋人を持つ身としては、なんというか、「冗談じゃ済まない」とも思うのだが。
「お前を置いては死ねないよ。なまえ。」
悲しそうな笑みと共に贈られたその言葉は、嘘ではないことを信じたいと、心底思う。
よく暖房の効いた部屋。お気に入りのラジオからは、落ち着いたクラシックが流れている。
同じソファーで、隣に座っている恋人が、コーヒー片手に私の名前を呼んだ。窓ガラスの向こうには、しんしんと降り積もる雪が、町を白く染めている。
連日の仕事や、疲れる会話なんかとは無縁の、暖かくて優しいこの空間に微睡んで、安心しきっていた自分の口から、咄嗟に言葉は出なかった。しかし、彼の方に視線を向けただけでも、返事の代わりにはなったようだ。
そんな私を見て、彼はそっと微笑んだ。その少しの動きで揺れ動く、情熱的な色をした長髪は、眠気のせいだろうか。陽の光を受けた宝石のように輝いて見える。
そして、またひと口、彼はコーヒーを啜って今度こそ話し出した。
「…これは、例えばの話なんだが。明日俺が死ぬとしたら…どうする?」
その思わぬ内容に、私に覆い被さっていた眠気は、瞬時にどこかへ行ってしまった。もたれ掛かっていたソファーの肘掛けから体を起こして、彼がしっかり視界に入るように、改めて座り直す。
「…一応聞くけど…そんな予定があるとかじゃ、無いよね?」
「ああ、もちろんそんな予定は無いが……でも、興味はあるよ。お前がどんな反応するのか。」
そう言って笑い、再びカップを口元に寄せる横顔をじいっと眺めてみる。少なくとも自殺願望とか、そういった類の症状の兆候では無いことに安堵しつつ、私は彼の言う「明日恋人が死ぬ」もとい「恋人が死んでいた」という状況を想像してみることにする。
仮に、なぜか朝からパタリと連絡が途絶えている彼の自宅を訪ねたとしよう。実際に入ってみると、ベッドの上とか書斎のロッキングチェアとかに文字通り、死んだように眠る恋人がいる訳だ。少なくとも、そんな場面に直面して、救急車を呼ぶとか、警察に通報するとか、そういった冷静な判断は出来る自信がない。
それどころか、気が動転して、本当に寝ているだけかも。という決断を下しかねない。
そこから先は、やはり想像するのも心苦しい。搬送先の病院で、なんともやるせなさそうな医者の言葉を聞く事になるのだろうか。
「嫌だなあ、パパラチアが明日死んじゃうのは。…せめて1ヶ月は、心の準備をしたいかなあ。」
「はは、なるほどな。」
私の答えを聞いて、彼はまた薄く微笑みを浮かべる。数年前のこととはいえ、内臓に関わる大手術をした経験のある恋人を持つ身としては、なんというか、「冗談じゃ済まない」とも思うのだが。
「お前を置いては死ねないよ。なまえ。」
悲しそうな笑みと共に贈られたその言葉は、嘘ではないことを信じたいと、心底思う。