バレンタイン・ジュエル
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世間は、バレンタインデー真っ盛り。街を歩いていても、そこら中に煌びやかなチョコレート達が並んでいる。毎年毎年、ご苦労なものだと思うのだけれど、今年は私もそれに乗せられた内の1人になってしまったらしい。
「…出来たっ!」
この目の前に並んだ小さな粒達に、一体どれだけの時間が掛かったことか。たかが溶かして固めるだけ、と考えていたのが甘かった。普段からお菓子作りなんてしないくせに、そのくせ一度凝りだしたらキリが無かった。今日という休日をまるごと返上して作ってしまったのだから、私は存外凝り性らしい。
無残にもキッチンに散乱したチョコレートの残骸を見れば、光沢のあって綺麗な、ごく貴重な成功例に手放しで喜びたくもなる。残念な結果になったチョコレート達は、こっそりと消費していくことにしようか。捨てるのはもったいない。
包装は派手過ぎず、上品な色合いの小箱を選んだ。薄い焦げ茶色をした箱の蓋部分には、華やかな花飾りが付けられている。我ながら、なかなかセンスがいいのではないだろうか。
「喜んでくれるかなぁ…」
柄にも無くはしゃいで作ったチョコレート。無事形になったのは良いとして、肝心なのはこれからだ。あまり甘いものは得意ではないと彼は言っていたが、それを十分考慮して甘過ぎないビターチョコを材料に使った。食べてくれるといいな。
それから、私は小さな贈り物の箱をテーブルの上に置いた。ふと壁に掛けた時計を見上げれば、短針は4の字を指している。朝方に用事があると出かけて行った彼が戻るまで、そう長くは無いはずだ。
テレビを点けて、適当な番組を流し、ソファーに身体を預ける。身体がゆっくりと沈むのと同時に、彼に自分が作ったチョコレートを渡す光景を想像する。ふわりと顔に熱が集まった気がした。ちゃんと渡せるかな。失敗してしまわないだろうか。そんなことばかり考えてしまう。
短針が、5の字を指している。
カチ、カチ、と時計の秒針が動く音をBGMに、私はソファーにごろりと寝転がり、ぼんやりとしていた。結局テレビには集中出来ず、消してしまった。しかし、変わらず顔は熱いままだ。
ガチャリ。
突然、時計の音だけが虚しく響いていた部屋に、そんな金属音が入り込んできた。
「あっ…」
はやる気持ちを抑えながら、私はリビングを飛び出して、廊下に出る。それから、ひとつ息を吐いて、音のした方、つまり玄関を覗く。
「…ただいま」
またガチャリと音を鳴らして閉じた扉を背に、真っ黒な長髪をさらりと揺らしながら、彼は私に向かってそう言うと、かすかに微笑んだ。相変わらず、この人の笑顔はちょっと怖い。でも、そんな不器用な笑顔が好きなんだよなぁ。
「…ボルツ、おかえり!」
そのままコートを脱いで、リビングに向かおうとする彼の右手には、黒くて小さな箱が収まっている。一体なんだろうか。
「ボルツ、その箱って…」
「…今は秘密だ。」
私が箱のことを訊ねてみれば、彼は真面目な表情で、「しーっ」と唇に人差し指を立てた。しかし、そう言われると、余計に気になるのだが。
納得しない様子の私を見兼ねてか、ため息をひとつ吐くと、彼はリビングのテーブルを指差して、また、静かに口を開いた。
「だったら…お前こそ、あれは何なのか言え。そしたら僕も教えてやらんこともない。」
彼の指が指した先にあるのは、例の…手作りチョコレート。別に、大した物じゃないのに、実際に何なのか言ってみろと言われると、少し恥ずかしい。
「あ、えと、バレンタインデー…の、チョコレート…です。」
「ほほう」
勢いでばっと箱を手に取って、そのまま差し出してみれば、彼は表情を崩さずにそれを受け取り、一瞥すると、近くにあった戸棚の上にコトリと置いた。ニコリともしていない。いつものことなのに、なぜだろうか、嫌に緊張する。
「で、そっちは…?」
彼が約束を違えるような性格をしていないのは知っているので、
さて教えてもらおうと改めて視線を前に向ける。
私の視界に1番に映り込んだのは、銀色のリング。
「なまえ。僕と結婚してくれないか。」
「……ええっ!?」
突然の言葉に、頭がぐらりと揺れるようだ。なんとか言葉の意味を飲み込んで、再び箱の中に視線を向ける。小さな指輪の先に嵌め込まれているのは、部屋の電気を照り返して、キラリとした輝きを放つ真っ黒な宝石。よく見るダイヤモンドの指輪とは違うものだろうか。
なんか、ボルツの髪にそっくりだ、…なんて考えてる場合じゃないよね。
「…出来たっ!」
この目の前に並んだ小さな粒達に、一体どれだけの時間が掛かったことか。たかが溶かして固めるだけ、と考えていたのが甘かった。普段からお菓子作りなんてしないくせに、そのくせ一度凝りだしたらキリが無かった。今日という休日をまるごと返上して作ってしまったのだから、私は存外凝り性らしい。
無残にもキッチンに散乱したチョコレートの残骸を見れば、光沢のあって綺麗な、ごく貴重な成功例に手放しで喜びたくもなる。残念な結果になったチョコレート達は、こっそりと消費していくことにしようか。捨てるのはもったいない。
包装は派手過ぎず、上品な色合いの小箱を選んだ。薄い焦げ茶色をした箱の蓋部分には、華やかな花飾りが付けられている。我ながら、なかなかセンスがいいのではないだろうか。
「喜んでくれるかなぁ…」
柄にも無くはしゃいで作ったチョコレート。無事形になったのは良いとして、肝心なのはこれからだ。あまり甘いものは得意ではないと彼は言っていたが、それを十分考慮して甘過ぎないビターチョコを材料に使った。食べてくれるといいな。
それから、私は小さな贈り物の箱をテーブルの上に置いた。ふと壁に掛けた時計を見上げれば、短針は4の字を指している。朝方に用事があると出かけて行った彼が戻るまで、そう長くは無いはずだ。
テレビを点けて、適当な番組を流し、ソファーに身体を預ける。身体がゆっくりと沈むのと同時に、彼に自分が作ったチョコレートを渡す光景を想像する。ふわりと顔に熱が集まった気がした。ちゃんと渡せるかな。失敗してしまわないだろうか。そんなことばかり考えてしまう。
短針が、5の字を指している。
カチ、カチ、と時計の秒針が動く音をBGMに、私はソファーにごろりと寝転がり、ぼんやりとしていた。結局テレビには集中出来ず、消してしまった。しかし、変わらず顔は熱いままだ。
ガチャリ。
突然、時計の音だけが虚しく響いていた部屋に、そんな金属音が入り込んできた。
「あっ…」
はやる気持ちを抑えながら、私はリビングを飛び出して、廊下に出る。それから、ひとつ息を吐いて、音のした方、つまり玄関を覗く。
「…ただいま」
またガチャリと音を鳴らして閉じた扉を背に、真っ黒な長髪をさらりと揺らしながら、彼は私に向かってそう言うと、かすかに微笑んだ。相変わらず、この人の笑顔はちょっと怖い。でも、そんな不器用な笑顔が好きなんだよなぁ。
「…ボルツ、おかえり!」
そのままコートを脱いで、リビングに向かおうとする彼の右手には、黒くて小さな箱が収まっている。一体なんだろうか。
「ボルツ、その箱って…」
「…今は秘密だ。」
私が箱のことを訊ねてみれば、彼は真面目な表情で、「しーっ」と唇に人差し指を立てた。しかし、そう言われると、余計に気になるのだが。
納得しない様子の私を見兼ねてか、ため息をひとつ吐くと、彼はリビングのテーブルを指差して、また、静かに口を開いた。
「だったら…お前こそ、あれは何なのか言え。そしたら僕も教えてやらんこともない。」
彼の指が指した先にあるのは、例の…手作りチョコレート。別に、大した物じゃないのに、実際に何なのか言ってみろと言われると、少し恥ずかしい。
「あ、えと、バレンタインデー…の、チョコレート…です。」
「ほほう」
勢いでばっと箱を手に取って、そのまま差し出してみれば、彼は表情を崩さずにそれを受け取り、一瞥すると、近くにあった戸棚の上にコトリと置いた。ニコリともしていない。いつものことなのに、なぜだろうか、嫌に緊張する。
「で、そっちは…?」
彼が約束を違えるような性格をしていないのは知っているので、
さて教えてもらおうと改めて視線を前に向ける。
私の視界に1番に映り込んだのは、銀色のリング。
「なまえ。僕と結婚してくれないか。」
「……ええっ!?」
突然の言葉に、頭がぐらりと揺れるようだ。なんとか言葉の意味を飲み込んで、再び箱の中に視線を向ける。小さな指輪の先に嵌め込まれているのは、部屋の電気を照り返して、キラリとした輝きを放つ真っ黒な宝石。よく見るダイヤモンドの指輪とは違うものだろうか。
なんか、ボルツの髪にそっくりだ、…なんて考えてる場合じゃないよね。