JOGIO短編集
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落としたハンカチを拾ってもらった、たったそれだけなのに。あの人以上にカッコいい男の人なんているわけない!ってくらいに惚れてしまったの。
「これが一目惚れってやつかしら。映画やドラマの中だけの話だと思っていたのに。どうしよう、もうベタ惚れよ!笑えてきちゃう。…名前?えっと、確か…東方くんっていうの。…なによお母さん、その顔は。私の顔になにかついてる?」
「うん。ついてるわねぇ…でかでかと、恋してます!って感じの顔が。」
ため息混じりにそう言った母に、なによそれ。と私が返すよりも早く、母は椅子から立ち上がり、台所へと消えてしまった。
アンタもかつては恋する乙女だったんじゃあないんですか!?娘の一大事になんと薄情なのだろう。
「はーあ…まあ、こんなのただの片想いで終わりよね。ちょっとライバルが多すぎるし…」
自分の部屋のベッドに寝転がって、そんなことを呟いた。そう、何を隠そう例の東方くんは、髪型こそやや時代遅れ感は否めないものの、愛想は良いし、背は高いしで女子人気はそりゃあもうヤバいってほどである。ライバルが多すぎる、というのも至極当然のことなのだ。
「A組のサキも、3年の吉田先輩も、東方くんのこと気になってるって………あぁ〜…勝ち目ゼロだわ!」
なにひとつ取り柄のない、平凡な自分ではなにかとキラキラしている彼女たちには敵いっこないだろう。とても残念だけど、叶わぬ恋なのだ、と笑って諦めるしかない。そう思い、寝返りを打って枕に思いっきり顔を埋めると、さっき使ったシャンプーの香りがした。石鹸のいい香りがする、使い慣れた商品だけど、キラキラした女の子になるには、これじゃあダメな気がする。
(流行りのものを使ったほうが、良いのかな…)
そうだわ。何も取り柄が無いってことは、これから何か出来るかもしれないってことよね!まだまだ、諦めるには早いわよ!私の恋心!
「その意気です。」
そう気を持ち直した刹那、部屋の中に、自分のものではない声が響いた。無機質で、抑揚の無い、中性的な声。
「………お化け!?」
先ほどリビングで怪談特集の番組を観たばかりの私の脳内には、断トツで怖かった「恐怖!日常生活に潜む怪奇現象!」という企画の禍々しい色をしたテロップが浮かび上がった。
「お化けではありません。私はあなたです。」
「ひぃっ!返事した!」
一体全体。どういう事だ。信じられないことに、思わずベッドから飛び起きた私の目の前には、ワンピースっぽいものを身につけた半透明の、人のような形をした何かが、ふよふよとカーペットの上を浮遊しているではないか。
いよいよおかしい。幻覚かしら?と目を擦ってみても、そのふよふよしたなにかは消えていなかった。
「私は、あなたのその恋心をきっかけにして生まれました。あなたの恋を成就させるのが、私の役目です。」
不思議がる私をよそに、ふよふよはなにやら話し出した。私が、生み出した?なにを言っているのだろう。
「えっと…どういうこと?ひとつも分からないわ。」
なるべく困っているという事が伝わるように、私は首を傾げて、意を決してふよふよに話しかけた。
ため息をつくような仕草と、音を出してからふよふよは私の方を見た。実際には目らしきものは見られないけど、多分こっちを見ている。
「分からないのではなく、理解する気がないのです。自分の理解の及ばないことには全く興味を持たない。あなたの昔からの悪い癖ですね。」
そして、そんなことを言う。なんじゃそりゃ。なんでいきなり現れたふよふよに、知った口きかれて、そんなことを言われなきゃならんのだ。
「ちょっと、なによそれ!私だかなんだか知らないけど、ホントにそうなら、私の幼稚園の時の初恋当ててみなさいよ!そしたらアンタの存在でもなんでも認めてあげるわよ!」
自分でも驚くくらいの早口で、私はそうまくし立てた。もはや、これが現実なのか、夢なのかは分からない。でも、太ももをつねったら痛かったので、もうこれは現実なのだ。それならば、もしかしたら、こいつの言うことも、本当かもしれない。
「いいですよ。ゾウ組の大塚ムサシくんでしょう?」
「あーっ!墓まで持って行くって決めてたのに……て、ことは訳わかんないけど、私なのね?」
見えないけど、多分ドヤ顔でそう言ったであろう、ふよふよの言葉が、墓まで持っていくつもりだった幼き日の初恋を暴いた。これで、私はもうふよふよを信じるしかなくなってしまった。
「じゃあ、アンタは何が出来るの?教えてよ。」
もう一度ベッドに寝転がってから、私はふよふよに質問した。
「簡潔に言うと、人の心を操ることが出来ます。」
「えっ……てことは!」
な、なんだと!?なんだそのいかにも私のためみたいなちょー便利能力は。動揺を隠せず、私の喉からは思ったよりの大声が出る。 その様子を見てか、ふよふよも機嫌良さそうに部屋の中をくるくると浮遊しだした。
しかし、何度か空中を飛びまわった後、ふよふよはやはり無機質な声でこう言った。
「ただし、あなたを中心にした、半径10cm以内の人間限定なのですが。」
やっぱり、恋っていうのは楽しようと思っちゃダメなんですね。神さま!
「これが一目惚れってやつかしら。映画やドラマの中だけの話だと思っていたのに。どうしよう、もうベタ惚れよ!笑えてきちゃう。…名前?えっと、確か…東方くんっていうの。…なによお母さん、その顔は。私の顔になにかついてる?」
「うん。ついてるわねぇ…でかでかと、恋してます!って感じの顔が。」
ため息混じりにそう言った母に、なによそれ。と私が返すよりも早く、母は椅子から立ち上がり、台所へと消えてしまった。
アンタもかつては恋する乙女だったんじゃあないんですか!?娘の一大事になんと薄情なのだろう。
「はーあ…まあ、こんなのただの片想いで終わりよね。ちょっとライバルが多すぎるし…」
自分の部屋のベッドに寝転がって、そんなことを呟いた。そう、何を隠そう例の東方くんは、髪型こそやや時代遅れ感は否めないものの、愛想は良いし、背は高いしで女子人気はそりゃあもうヤバいってほどである。ライバルが多すぎる、というのも至極当然のことなのだ。
「A組のサキも、3年の吉田先輩も、東方くんのこと気になってるって………あぁ〜…勝ち目ゼロだわ!」
なにひとつ取り柄のない、平凡な自分ではなにかとキラキラしている彼女たちには敵いっこないだろう。とても残念だけど、叶わぬ恋なのだ、と笑って諦めるしかない。そう思い、寝返りを打って枕に思いっきり顔を埋めると、さっき使ったシャンプーの香りがした。石鹸のいい香りがする、使い慣れた商品だけど、キラキラした女の子になるには、これじゃあダメな気がする。
(流行りのものを使ったほうが、良いのかな…)
そうだわ。何も取り柄が無いってことは、これから何か出来るかもしれないってことよね!まだまだ、諦めるには早いわよ!私の恋心!
「その意気です。」
そう気を持ち直した刹那、部屋の中に、自分のものではない声が響いた。無機質で、抑揚の無い、中性的な声。
「………お化け!?」
先ほどリビングで怪談特集の番組を観たばかりの私の脳内には、断トツで怖かった「恐怖!日常生活に潜む怪奇現象!」という企画の禍々しい色をしたテロップが浮かび上がった。
「お化けではありません。私はあなたです。」
「ひぃっ!返事した!」
一体全体。どういう事だ。信じられないことに、思わずベッドから飛び起きた私の目の前には、ワンピースっぽいものを身につけた半透明の、人のような形をした何かが、ふよふよとカーペットの上を浮遊しているではないか。
いよいよおかしい。幻覚かしら?と目を擦ってみても、そのふよふよしたなにかは消えていなかった。
「私は、あなたのその恋心をきっかけにして生まれました。あなたの恋を成就させるのが、私の役目です。」
不思議がる私をよそに、ふよふよはなにやら話し出した。私が、生み出した?なにを言っているのだろう。
「えっと…どういうこと?ひとつも分からないわ。」
なるべく困っているという事が伝わるように、私は首を傾げて、意を決してふよふよに話しかけた。
ため息をつくような仕草と、音を出してからふよふよは私の方を見た。実際には目らしきものは見られないけど、多分こっちを見ている。
「分からないのではなく、理解する気がないのです。自分の理解の及ばないことには全く興味を持たない。あなたの昔からの悪い癖ですね。」
そして、そんなことを言う。なんじゃそりゃ。なんでいきなり現れたふよふよに、知った口きかれて、そんなことを言われなきゃならんのだ。
「ちょっと、なによそれ!私だかなんだか知らないけど、ホントにそうなら、私の幼稚園の時の初恋当ててみなさいよ!そしたらアンタの存在でもなんでも認めてあげるわよ!」
自分でも驚くくらいの早口で、私はそうまくし立てた。もはや、これが現実なのか、夢なのかは分からない。でも、太ももをつねったら痛かったので、もうこれは現実なのだ。それならば、もしかしたら、こいつの言うことも、本当かもしれない。
「いいですよ。ゾウ組の大塚ムサシくんでしょう?」
「あーっ!墓まで持って行くって決めてたのに……て、ことは訳わかんないけど、私なのね?」
見えないけど、多分ドヤ顔でそう言ったであろう、ふよふよの言葉が、墓まで持っていくつもりだった幼き日の初恋を暴いた。これで、私はもうふよふよを信じるしかなくなってしまった。
「じゃあ、アンタは何が出来るの?教えてよ。」
もう一度ベッドに寝転がってから、私はふよふよに質問した。
「簡潔に言うと、人の心を操ることが出来ます。」
「えっ……てことは!」
な、なんだと!?なんだそのいかにも私のためみたいなちょー便利能力は。動揺を隠せず、私の喉からは思ったよりの大声が出る。 その様子を見てか、ふよふよも機嫌良さそうに部屋の中をくるくると浮遊しだした。
しかし、何度か空中を飛びまわった後、ふよふよはやはり無機質な声でこう言った。
「ただし、あなたを中心にした、半径10cm以内の人間限定なのですが。」
やっぱり、恋っていうのは楽しようと思っちゃダメなんですね。神さま!
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