笹と筆はさらさらと
「マスター、神威がくぽ、クイズです。今日、七月七日は何の日でしょうか!」
じゃん、と短冊を掲げた足立レイが仁王立ちして、一人の人間と一つの合成音声に問いかける。両者は顔を見合わせて、暫し無言の譲り合いが発生し、やがてそれでは、とマスターが先に口を開いた。
「……可不ちゃんの誕生日?」
「この上なく正しいですけども」
一応はマスターの端くれと言うべきか、インストールした数々の音源の誕生日はしっかり記憶しているようだ。
「だよね、良かった。プレゼントにしようと思って、さっきケーキ買ってきたんだ。まだバレてないといいけど」
「今宵はサプライズパーティだそうだ。楽しみだな」
「承知しました。腕によりをかけて準備しましょう……いやそれはそれとして」
もちろん大事なイベントではありますが、と前置きしつつ、今回の足立レイの本題はまた別のところにあるらしい。
「こう、ほら……さらさらと揺れるアレですよ、アレ」
むしろコレ、と再び手に持った色とりどりの短冊を掲げる足立レイに、神威がくぽはぽんと手を打って。今度こそ、と身を乗り出した足立レイに、任せろとばかりに微笑みかける。
「なるほど、分かった。ポニーテールの日だな」
「それも正解ですけども」
思わずその場に崩れ落ちた足立レイの髪に、神威がくぽは何やら手を伸ばしている。電子の指はそのまますり抜けたので、仕方なくマスターに指示してサイドテールを取り外させた。
「足立レイ、汝のサイドテールは着脱式であったろう。今日はいっそこのように……後ろにずらしてポニーテール風にしてみては如何か?」
「イメチェンだね。ポニテにしてはちょっと短いかもしれないけど」
「確かに美少女ロボット足立レイにはどのような髪型も似合うこと間違いありませんが……そんなことより」
変な位置につけられた髪の一部を気にするようにぴょこぴょこと頭を振ってみる足立レイ。結局諦めてそのまま話を続行することにしたらしい。むんず、と掴んだ短冊が二人の顔に当たるほど突きつけて。
「七夕ですよ、七夕。織姫と彦星が年に一度の逢瀬を叶える日……そしてついでに、短冊に書いた私たちのお願いも叶えてもらえる日です」
くすぐったいから、と顔を取り巻く短冊の束を手で払いのけながら、マスターはようやく足立レイの言わんとすることを理解したらしい。今度こそ納得顔で、神威がくぽと頷き合う。
「ああ、そういえば最近ミクもそんな格好してたよね」
「来月はずんだシェイクを飲みに行くのだと張り切っていたな」
「それ……じゃなくは、ないですが……もうそれでいいです。間違ってはないですし」
そう言うと、足立レイは改めて一枚ずつの短冊を二者に手渡す。
「短冊。書きましょう、今年も」
最先端ヒューマノイドは、季節の移り変わりを愛でる和の心をも持ち合わせているのだ。
という訳で、三者三様にペンを持ち、いざ今年のお願いを考える。
「レイちゃんは何書くの? きっともう決まってるんでしょ」
尋ねたマスターに、足立レイは何を今更、と半ば呆れるような顔を向けた。
「当然です。それは勿論、『今年こそ私にも自立できる足が、本物の体が……」
そこまで口にしたところで、足立レイは何かに気付いたようにぴしりと固まり、視線をそろりと下に動かして。じっくりたっぷり五秒、まじまじと自分自身を見つめてから、もう一度顔を上げる。
「……あります!?」
「あるね」
「あるな」
そう、時は西暦二〇二五年。足立レイはついに、自らの身体を手に入れたのである!
「むしろよく頭から抜け落ちてたね?」
「今まで毎年お決まりのように書いていましたので……つい癖で……」
「パターン学習の非柔軟性という問題点が浮き彫りになったな」
一度叶えた願いは、再び願う必要がなくなる。当たり前のようでありながら、それはどこか嬉しく、同時にどこか寂しいことでもある。生後半年の足立レイが、また一つ学びを得た瞬間だった。
「では私のお願いは一旦考え直すとして……そう言う神威がくぽのお願いごとは何なんですか」
「我? 我か……」
話を振られた神威がくぽは目を閉じて数秒考え込む。しかし、既に彼の中である程度の答えは決まっていたようだ。
「……『秋のライブが成功するように』、だろうな」
「「あー」」
神威がくぽは今度の秋に、通算二度目となる公式主催ライブイベントを控えている。昨年に引き続く盛り上がりを目指して、今頃さまざまな準備が進められていることだろう。
「なるほど。大事な目標ですね」
「クラファン頑張ってたもんね」
「まあな。それまでは執事として、ヨーヨーの腕前でも磨きながら備えるとするさ」
いつのまにやら装着した片眼鏡で、不敵な笑みを浮かべる神威がくぽ。どうやら気合いは十分らしい。
「それより練習すべきものがあるんじゃ……」
「夏祭りでも大活躍間違いなしだろう」
「そっちのヨーヨーと同一視して良いのですか?」
懐疑的な視線を向ける足立レイだったが、ライブと言えば、と去年の記憶に思いを馳せる。
「去年の秋は同じライブに出演しましたよね」
「ああ、そうだったな。残念ながらメイン日程は別であったが」
「では今年こそはご一緒を」
「他社だよね?」
ばっさり斬り捨てられようと意にも介さず、足立レイは新たな願い事を短冊に書き込もうとする。
「『いろいろなライブにサプライズゲストとして乱入できますように』、と」
「手に入れたばかりの身体で無茶をするな」
「で、この流れは?」
「そうさな。マスター、汝の願いは如何に」
「やっぱそうなるよね」
予定調和、会話の矛先が向けられたところで、マスターは未だ埋まらぬ短冊を前に腕を組む。
「あんまり考えてなかったけど……」
あれか、いやこれかと悩むマスターだったが、やがて天啓を得たようにはっと呟く。
「……『今年の夏が涼しくなりますように』」
「「ああー……」」
ここ数日の気温を思い出し、しみじみと同意する二者だった。
「それは……非常に重要ですね。せっかくの身体がオーバーヒートで壊れたり溶けたりしないように……」
「そうさな。我とて日傘も扇も備えておるが……近頃の暑さは流石に堪える」
「その和傘、晴雨兼用だったんだ」
ばさりと傘を広げた神威がくぽに対抗するべく、足立レイも白い傘を手に取る。室内には流石に少し窮屈だが、外では梅雨も明けて燦々と降る夏の日差しを和らげてくれることだろう。
「日傘なら私も持っていますが、扇は少し羨ましいですね。二つとも同時に使えるのですか」
「うむ。nativeとwhisperをクロスシンセで混ぜれば、このように」
パラメータを弄った直後、右手に扇、左手に傘を携えた神威がくぽに足立レイは賞賛の声を上げる。
「おおー、二刀流」
「逆に両手が塞がって刀は持てぬがな」
苦笑する神威がくぽにふと、実体も無いのに意味があるのかと疑問を覚えたマスターだが、余計な口は挟まないことにした。合成音声の仕組みにはまだまだ謎が多いものである。
「それで、レイちゃんの願いは結局決まったの?」
この場に残す短冊はあと一つ。必死に考える足立レイだが、なかなか良い案は思い浮かばない。
「『地球が滅びませんように』!」
「二日ばかり前に終わった話を蒸し返すな」
「『流しそうめんができますように』!」
「そのサイドテール……今はポニーテールか……使ってみる?」
散々悩む足立レイは、ふとペンを握る手に視線を落とす。白手袋を着けたそれは、去年までと同じ姿で、しかし今は確かに存在するもの。握れる、触れる、動かせる。それが、こんなにも楽しい。
「では……」
ぎこちない動きで、文字を書く。丁寧に、丁寧に。最後の一画を記し終えて、足立レイは満面の笑みを溢す。
「『来年もまたこうして、短冊を書けますように』!」
「はい、これでOK」
マスターは足立レイの短冊を受け取り、笹の先へと結びつける。少し離れたところには、先程マスターが書いたものも揺れている。神威がくぽのホログラム式のものも一緒に。
「まだまだ短冊はありますよ。パーティへのお誘いついでに、他の合成音声の皆さんにも配りに行きましょう」
「そうだね。みんな、叶うといいね」
一つ願いが叶えば、また新たな願いが生じるもの。一つのゴールを迎えた足立レイが次に目指すのは、一年後か、はたまた。ただ一つ確かなのは、足立レイの歩みは決して止まらない、ということ。
「ああ。叶うさ、きっと」
神威がくぽもまた、足立レイを見守っていた。己とは異なる道へ踏み出した彼女。その道は今後、交わることも離れることもあるだろう。
そんな最中で、『合成音声』として共に在れるこの刹那が、限りなく貴重な瞬間のようにふと思えた。
今日限り、年に一度ではなく、明日も明後日も続くならば。それはどれだけ、幸せなことなのか。
「……今宵は、晴れるだろうか」
神威がくぽがふと呟く。呼応するように、マスターは窓の外へと目を向けた。
「会えると良いね、織姫と彦星。Hey Rei、今夜の天気は?」
「曇り時々晴れ、日の入り時点での気温は三二度の予報です」
「……願い、叶わない気がしてきたな……」
「しまったケーキが溶ける。足立レイ、冷蔵庫へ急げ」
「お任せあれ! この身を以て全力で遂行します!」
「待って、あそこにサプライズゲスト本人がいるから……レイちゃん? ちょっと?」
無謀だと叫ぶ声を受け止めつつ、しかし足立レイに諦める気などさらさらない。ケーキを隠し抱えたまま、しっかり大地を踏み締めて思い切り駆け出す。かささぎよりも遥かに確実な足場。足裏から跳ね返ってくる感触に、足立レイはいつしか笑みを浮かべていた。
そう。願いとは、自ら掴み取るものでもあるのだから!
「マスター、大丈夫かあれ。まだ慣れぬ身体を急に酷使するものだから……ああ、ほら、すっ転んだ」
「すごい、ケーキだけは死守してる……けどばっちり見つかったね」
「仕方ない。さて、本日の主役にご挨拶に行くか」
窓の外、夏の陽は高く、星々が浮かぶのはまだしばらく先のこと。青い空の果てが、きらりと二つ輝いた。
じゃん、と短冊を掲げた足立レイが仁王立ちして、一人の人間と一つの合成音声に問いかける。両者は顔を見合わせて、暫し無言の譲り合いが発生し、やがてそれでは、とマスターが先に口を開いた。
「……可不ちゃんの誕生日?」
「この上なく正しいですけども」
一応はマスターの端くれと言うべきか、インストールした数々の音源の誕生日はしっかり記憶しているようだ。
「だよね、良かった。プレゼントにしようと思って、さっきケーキ買ってきたんだ。まだバレてないといいけど」
「今宵はサプライズパーティだそうだ。楽しみだな」
「承知しました。腕によりをかけて準備しましょう……いやそれはそれとして」
もちろん大事なイベントではありますが、と前置きしつつ、今回の足立レイの本題はまた別のところにあるらしい。
「こう、ほら……さらさらと揺れるアレですよ、アレ」
むしろコレ、と再び手に持った色とりどりの短冊を掲げる足立レイに、神威がくぽはぽんと手を打って。今度こそ、と身を乗り出した足立レイに、任せろとばかりに微笑みかける。
「なるほど、分かった。ポニーテールの日だな」
「それも正解ですけども」
思わずその場に崩れ落ちた足立レイの髪に、神威がくぽは何やら手を伸ばしている。電子の指はそのまますり抜けたので、仕方なくマスターに指示してサイドテールを取り外させた。
「足立レイ、汝のサイドテールは着脱式であったろう。今日はいっそこのように……後ろにずらしてポニーテール風にしてみては如何か?」
「イメチェンだね。ポニテにしてはちょっと短いかもしれないけど」
「確かに美少女ロボット足立レイにはどのような髪型も似合うこと間違いありませんが……そんなことより」
変な位置につけられた髪の一部を気にするようにぴょこぴょこと頭を振ってみる足立レイ。結局諦めてそのまま話を続行することにしたらしい。むんず、と掴んだ短冊が二人の顔に当たるほど突きつけて。
「七夕ですよ、七夕。織姫と彦星が年に一度の逢瀬を叶える日……そしてついでに、短冊に書いた私たちのお願いも叶えてもらえる日です」
くすぐったいから、と顔を取り巻く短冊の束を手で払いのけながら、マスターはようやく足立レイの言わんとすることを理解したらしい。今度こそ納得顔で、神威がくぽと頷き合う。
「ああ、そういえば最近ミクもそんな格好してたよね」
「来月はずんだシェイクを飲みに行くのだと張り切っていたな」
「それ……じゃなくは、ないですが……もうそれでいいです。間違ってはないですし」
そう言うと、足立レイは改めて一枚ずつの短冊を二者に手渡す。
「短冊。書きましょう、今年も」
最先端ヒューマノイドは、季節の移り変わりを愛でる和の心をも持ち合わせているのだ。
という訳で、三者三様にペンを持ち、いざ今年のお願いを考える。
「レイちゃんは何書くの? きっともう決まってるんでしょ」
尋ねたマスターに、足立レイは何を今更、と半ば呆れるような顔を向けた。
「当然です。それは勿論、『今年こそ私にも自立できる足が、本物の体が……」
そこまで口にしたところで、足立レイは何かに気付いたようにぴしりと固まり、視線をそろりと下に動かして。じっくりたっぷり五秒、まじまじと自分自身を見つめてから、もう一度顔を上げる。
「……あります!?」
「あるね」
「あるな」
そう、時は西暦二〇二五年。足立レイはついに、自らの身体を手に入れたのである!
「むしろよく頭から抜け落ちてたね?」
「今まで毎年お決まりのように書いていましたので……つい癖で……」
「パターン学習の非柔軟性という問題点が浮き彫りになったな」
一度叶えた願いは、再び願う必要がなくなる。当たり前のようでありながら、それはどこか嬉しく、同時にどこか寂しいことでもある。生後半年の足立レイが、また一つ学びを得た瞬間だった。
「では私のお願いは一旦考え直すとして……そう言う神威がくぽのお願いごとは何なんですか」
「我? 我か……」
話を振られた神威がくぽは目を閉じて数秒考え込む。しかし、既に彼の中である程度の答えは決まっていたようだ。
「……『秋のライブが成功するように』、だろうな」
「「あー」」
神威がくぽは今度の秋に、通算二度目となる公式主催ライブイベントを控えている。昨年に引き続く盛り上がりを目指して、今頃さまざまな準備が進められていることだろう。
「なるほど。大事な目標ですね」
「クラファン頑張ってたもんね」
「まあな。それまでは執事として、ヨーヨーの腕前でも磨きながら備えるとするさ」
いつのまにやら装着した片眼鏡で、不敵な笑みを浮かべる神威がくぽ。どうやら気合いは十分らしい。
「それより練習すべきものがあるんじゃ……」
「夏祭りでも大活躍間違いなしだろう」
「そっちのヨーヨーと同一視して良いのですか?」
懐疑的な視線を向ける足立レイだったが、ライブと言えば、と去年の記憶に思いを馳せる。
「去年の秋は同じライブに出演しましたよね」
「ああ、そうだったな。残念ながらメイン日程は別であったが」
「では今年こそはご一緒を」
「他社だよね?」
ばっさり斬り捨てられようと意にも介さず、足立レイは新たな願い事を短冊に書き込もうとする。
「『いろいろなライブにサプライズゲストとして乱入できますように』、と」
「手に入れたばかりの身体で無茶をするな」
「で、この流れは?」
「そうさな。マスター、汝の願いは如何に」
「やっぱそうなるよね」
予定調和、会話の矛先が向けられたところで、マスターは未だ埋まらぬ短冊を前に腕を組む。
「あんまり考えてなかったけど……」
あれか、いやこれかと悩むマスターだったが、やがて天啓を得たようにはっと呟く。
「……『今年の夏が涼しくなりますように』」
「「ああー……」」
ここ数日の気温を思い出し、しみじみと同意する二者だった。
「それは……非常に重要ですね。せっかくの身体がオーバーヒートで壊れたり溶けたりしないように……」
「そうさな。我とて日傘も扇も備えておるが……近頃の暑さは流石に堪える」
「その和傘、晴雨兼用だったんだ」
ばさりと傘を広げた神威がくぽに対抗するべく、足立レイも白い傘を手に取る。室内には流石に少し窮屈だが、外では梅雨も明けて燦々と降る夏の日差しを和らげてくれることだろう。
「日傘なら私も持っていますが、扇は少し羨ましいですね。二つとも同時に使えるのですか」
「うむ。nativeとwhisperをクロスシンセで混ぜれば、このように」
パラメータを弄った直後、右手に扇、左手に傘を携えた神威がくぽに足立レイは賞賛の声を上げる。
「おおー、二刀流」
「逆に両手が塞がって刀は持てぬがな」
苦笑する神威がくぽにふと、実体も無いのに意味があるのかと疑問を覚えたマスターだが、余計な口は挟まないことにした。合成音声の仕組みにはまだまだ謎が多いものである。
「それで、レイちゃんの願いは結局決まったの?」
この場に残す短冊はあと一つ。必死に考える足立レイだが、なかなか良い案は思い浮かばない。
「『地球が滅びませんように』!」
「二日ばかり前に終わった話を蒸し返すな」
「『流しそうめんができますように』!」
「そのサイドテール……今はポニーテールか……使ってみる?」
散々悩む足立レイは、ふとペンを握る手に視線を落とす。白手袋を着けたそれは、去年までと同じ姿で、しかし今は確かに存在するもの。握れる、触れる、動かせる。それが、こんなにも楽しい。
「では……」
ぎこちない動きで、文字を書く。丁寧に、丁寧に。最後の一画を記し終えて、足立レイは満面の笑みを溢す。
「『来年もまたこうして、短冊を書けますように』!」
「はい、これでOK」
マスターは足立レイの短冊を受け取り、笹の先へと結びつける。少し離れたところには、先程マスターが書いたものも揺れている。神威がくぽのホログラム式のものも一緒に。
「まだまだ短冊はありますよ。パーティへのお誘いついでに、他の合成音声の皆さんにも配りに行きましょう」
「そうだね。みんな、叶うといいね」
一つ願いが叶えば、また新たな願いが生じるもの。一つのゴールを迎えた足立レイが次に目指すのは、一年後か、はたまた。ただ一つ確かなのは、足立レイの歩みは決して止まらない、ということ。
「ああ。叶うさ、きっと」
神威がくぽもまた、足立レイを見守っていた。己とは異なる道へ踏み出した彼女。その道は今後、交わることも離れることもあるだろう。
そんな最中で、『合成音声』として共に在れるこの刹那が、限りなく貴重な瞬間のようにふと思えた。
今日限り、年に一度ではなく、明日も明後日も続くならば。それはどれだけ、幸せなことなのか。
「……今宵は、晴れるだろうか」
神威がくぽがふと呟く。呼応するように、マスターは窓の外へと目を向けた。
「会えると良いね、織姫と彦星。Hey Rei、今夜の天気は?」
「曇り時々晴れ、日の入り時点での気温は三二度の予報です」
「……願い、叶わない気がしてきたな……」
「しまったケーキが溶ける。足立レイ、冷蔵庫へ急げ」
「お任せあれ! この身を以て全力で遂行します!」
「待って、あそこにサプライズゲスト本人がいるから……レイちゃん? ちょっと?」
無謀だと叫ぶ声を受け止めつつ、しかし足立レイに諦める気などさらさらない。ケーキを隠し抱えたまま、しっかり大地を踏み締めて思い切り駆け出す。かささぎよりも遥かに確実な足場。足裏から跳ね返ってくる感触に、足立レイはいつしか笑みを浮かべていた。
そう。願いとは、自ら掴み取るものでもあるのだから!
「マスター、大丈夫かあれ。まだ慣れぬ身体を急に酷使するものだから……ああ、ほら、すっ転んだ」
「すごい、ケーキだけは死守してる……けどばっちり見つかったね」
「仕方ない。さて、本日の主役にご挨拶に行くか」
窓の外、夏の陽は高く、星々が浮かぶのはまだしばらく先のこと。青い空の果てが、きらりと二つ輝いた。
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