かがみもちもち

「しっかし、意外と思いつかないねー」
「この家もそこまで広くはないのにな」

 めちゃくちゃな場所に置いて悪戯仕掛けちゃおうか、いや後で食べれなくなっても勿体ないだろ、いいじゃんどうせ私たちには関係ないし。相談のような喧嘩のような会話を繰り広げつつ、取り敢えず無難な場所に一つずつ割り振っていく。靴箱の上、本棚の隙間、リビングの机の端。上手くバランスを取れば、あそこのテレビの上にも置けるかも。

「くまのすけに持ってもらうのはどうよ?」
「このテディベア? 確かに可愛いかもな」
「だよね! よし、マスター早く早く!」
「こちらの立場が弱いのを利用して好き勝手言いやがりますね……」

 でもやっぱそっちに置いて、と次々違う場所を指差す鏡音リンに、マスターは早くも疲労困憊。鏡音レンは鏡音レンで、絶妙に背の届かなかったりテクニックが要求されたりする場所ばかりを攻めてくる。

「お、お前たち……やっぱり恨みがあるんですか……?」
「いや、別に。そこもうちょい右」
「沢山使ってもらえる嬉しさを知ってほしいな、ってだけだよねー。やっぱさっきの場所に戻して」
「むしろ逆の意味が込められていた⁈」

 と、てんやわんやありつつも、いよいよ残るは一つだけ。しかし残り物には訳がある、その鏡餅は他に比べて明らかに一回り二回りずっしりと大きいのだった。

「ねぇレン、これ置ける場所あると思う?」
「これだけ大きいと今までみたいに空きスペースに……ってのは難しそうか」

 うろうろ家中を動き回ってみるも、なかなか良い場所は見つからず。一旦こたつ部屋に戻って、作戦会議を開始する。

「がんばって考えてはいるんだけどねー。……作戦一、レンに全てを任せる」
「それ作戦って呼ばないからな」
「作戦二、レンに全てを託す」
「何一つ変わってないからな」

 ごめーんねっ、と全く反省していない口ぶりの鏡音リンに溜息をついて、鏡音レンは思考回路をフル稼働。考え込んで、首を振って、見渡して、二度見して。ああ、ここが良いんじゃないの。そう呟いて指さしたのは、あの餅つき機の箱の上だった。

「いいね、お餅繋がりだし! でもそれだけ?」
「いや、その……なんていうか。立派な餅を見れば、こいつも餅つき機に生まれて良かったって思えるかな……みたいな」
「なにそれ。餅一色の人生も悲観するなってこと?」
「やっぱり一芸特化同士で通じ合うものがあるんですかね」
「えっと、……うん、俺もよくわかんなくなってきた」

 ざっくり行われた説明について詳しく考え直してみたところで、実のところ得られる情報はそこまで多くないらしい。人生において微妙に役立つ豆知識の一つとして、覚えておくと良いだろう。何はともあれ、これで最後の鏡餅も無事役目を果たすことが出来そうだ。

「しくったな。もうちょっと格好良いこと言って、リンとマスターを慄かせる作戦だったのに」
「それ作戦って呼ばないんだけど」
「おあいこだろ」

 いや全然違うから、と鏡音リンは不満げ。いやいや俺たちだって良い歌聞けたら嬉しくなるじゃん。いやいやいや、それはそうかもだけどさ。ストップ、リベンジさせて、と鏡音レンが人差し指を立てて黙らせる。

「まあ、もしかしたらさ。俺たちもこいつも、存在意義がかなり明確に決まってるって、意外とありがたいことなんじゃない? マスターだって今年の目標まだ決められずに困ってるみたいだし。だからほら……俺たちは俺たちらしく、良い意味で身の丈に合った生活を、的な……ごめんやっぱこれも無しで」
「レン……お正月だからって浮かれて変なことばっかり言ってると後で恥ずかしいよ」
「うわ、リンに言われるの嫌すぎ」

 またも白い目を向けられて、鏡音レンはすっかり意気消沈。そんなことより聞いてよ、と鏡音リンは全く気にせず鏡餅を指さして。

「すごいこと気づいちゃった! 二つで一つの存在……みかんが相棒……私たちと鏡餅って、なんだか似てるね……!」
「それ言いたいだけだろ、俺みかん関係ないし」
「バナナも添えてみます?」
「エキゾチック・オショーガツ……‼︎」

 すっかり楽しそうな彼女の雰囲気に引っ張られ、彼もようやく笑顔を取り戻す。さて今年はどんな一年になるのやら、少なくとも彼らを沢山歌わせてあげることは目標の一つに入れておこう、とこたつで決心するマスターだった。
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