かがみもちもち

 明るく賑やかなお正月ばかりがこの世に存在する——などと思うことなかれ。鏡音リンと鏡音レンは、こたつでぐでんぐでんに溶けていた。それはもう、人参や油揚げと一緒にぐつぐつぐつぐつ煮込まれて原型を留めなくなった、お雑煮のお餅のように。

「今日がお正月だからって、二人ともとろけすぎですよ」
「あー、ついうっかり。ほら、実体無い分、形が曖昧で……ね?」
「そんな設定昨日までなかっただろ」
「去年のことなんて覚えてないしー」

 けれども、そんな生活を三百六十六日ずっと続けることもまた不可能で。マスターからしっしと追い立てられて、二人は一応人の形を取り戻す。それでも鏡音リンのリボンは、未だしなしなと頼りなく。

「年の始まりだってのに……もうちょっとお目出度そうな顔しましょうよ」
「無理ですー。私まだ落ち込んでるし……」
「リン、まさか本気で紅白出れると思ってたわけ?」

 ま、流石にそれは半分冗談だけど、とにやり微笑む鏡音リン。半分は本気だったのか、と訝しむマスターの手元にひょいと手を伸ばし、剥きかけのみかんを奪い取ろうとする。伸ばした半透明な指先は、音もなく全てをすり抜けて沈んでいった。

「もう、どうせ触れないし食べれないんだから悪戯するなよ」
「折角存在してるのに何もできないなんてつまんないー! 今年はもっと色々やるから!」
「存在してるのかすら怪しいですけどね」
「マスターは黙ってて」

 しかめっ面をふいと背け、彼女はこたつを這い出て部屋の隅へ。昨日の大掃除を経てそれなりに綺麗になった一角には、毎年正月だけ引っ張り出されてくる箱入り餅つき機と、隣人から貰って持て余している鏡餅の山が取り残されている。

「よく考えてみるとさ、歌うだけのため、餅をつくだけのために特化した存在ってことで……私たちと餅つき機って、なんだか似てるね……」
「買った当初は大歓迎されてたのに、今じゃほぼインテリアと化してるところとかもな」
「すみませんでした、今年こそは頑張るので許してください」
「それ去年も聞いたしなぁ」

 てんで反省していない、と二人のVOCALOIDに責められ、必死で手を合わせるマスター。去年の起動回数が少なめだったことを根に持たれているらしい。形勢不利を悟ったマスターは、慌てて鏡音リンの脇に置かれた鏡餅を手に取った。さて、なんとか誤魔化せるか。

「ろくでなし扱いされるのもアレなので……大盤振る舞いです。この鏡餅、二人で好きな場所に飾っていいですよ! なんと十個以上もありますから!」
「マスター、それ、在庫処分って言うんだけどー」
「気のせいです」
「厄介ごとの押し付け、とも言うよな」
「気のせいですね」

 おお恐るべしVOCALOIDの情報処理能力、誤魔化しには失敗したものの、二人もそこそこ乗り気になってくれたようで。場所さえ決めてくれればちゃんと飾ってあげるから、とのマスターの言葉を受けて、いざ逆宝探しスタート。
1/2ページ
スキ