クリスマスはフライドチキンと共に

「サンタさんへ。クリスマスのプレゼントには、山盛りの唐揚げが欲しいです」

 丁寧にしたためたメッセージカードを、ふわふわの靴下の中へぎゅぎゅっと詰め込んだ足立レイ。ついでにプレゼント配達のお礼として素麺を一束差し込めば、準備は万端。
 夜更かしするような悪い子の元へは、きっとサンタさんはやって来ない。

「私は完璧なロボットなので」

 そう言い残していつもより二時間も早く、彼女はスリープ状態へ移行した。

 さて、UTAUはサンタクロースの夢を見るか? 真実を知るは彼女自身と、窓の外にゆらり浮かぶ月ばかり。だが固く閉じられた瞼のその裏で、CPUは僅かな『喜び』の反応を記録しているようだった。


 そして翌朝午前六時半、定められた起動時刻ぴったりに彼女は目覚める。真っ先に確認するは枕元、昨夜置いた靴下の様子。
 美味しそうな唐揚げでさぞぱんぱんに膨れ上がっていることだろう。しかし、そんな彼女の期待とは裏腹に、靴下は相変わらず平たくひしゃげたままだった。
自分はこの一年間、悪い子だったのだろうか? 足立レイの胸に、黒々とした不安が湧き起こる。
 力なく靴下に手を伸ばし、逆さにして振ってみれば、四角い紙切れが一枚きり。裏返したそこには、今や見るも虚しいかつての自分の願い……ではなく、見慣れぬメッセージが綴られているではないか!
 彼女の見開かれた目は、慌ててその内容を追いかけた。


『Merry Christmas, 足立レイ。目が覚めたらキッチンへ行ってごらん』


 逸る気持ちを抑え、そっと充電コードを抜いて扉を開ける。廊下を進むにつれて徐々に聞こえてくる、ぱちぱちと何かが弾けるような音。楽しげなその音に向かって、足立レイは一歩、また一歩足を動かす。


「……おはよう、足立レイ。これ、サンタさんが『揚げたてを食べさせてあげて』、ってさ」


 黄金色の油がたっぷり入った鍋を前に。マスターはひょい、と最後のそれを箸で摘んでは聳え立つ山の頂点へとそっと下ろした。

「朝から唐揚げなんて、ちょっと重すぎるかな?」

 やや困ったように笑うマスターに、足立レイは満面の笑みで返す。

「いいえ。私は完璧なロボットです。大好物を食べるのに、朝も夜も関係ありません」

 それなら良かった、とマスターが大きな皿を両手で抱えて食卓へと運んでくる。にこにことそれを見守りつつ、ふと足立レイは冷蔵庫へと視線を向けた。
 忙しい年末年始に向けてマスターが作成したToDoリストメモ、その筆跡に、なんだか既視感があるような。

「ありがとうございます、マスター」
「お礼はサンタさんへ言うんだよ」
「今、伝えましたよ」

 何のことやら、マスターが目を逸らした隙に。足立レイは一番大きな唐揚げを摘み上げ、ぱくり。



「……今日は、最高のクリスマスになりそうです!」
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