少しだけ昔の話
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「やぁ、塩谷。おはよう。」
「…おはよう。」
やってしまったあの日から、幸村くんはよく声をかけてくるようになった。軽口で約束した「友達」を、彼なりに果たそうとしているのか。
「相変わらず浮かない顔してるね。もっと笑ったらいいのに。」
「別に、面白かったら笑うよ。」
複雑な気持ちだった。私なんかに構わないで欲しいのと、「居ない」私に気付いてくれて嬉しいのと、半分半分。
「そうだ、美化委員で花壇の花植えするんだけど、手伝ってくれないかな?」
「そういうのは美化委員同士でやるんじゃないの。」
「そうだけど、俺は君としたいんだよ。土いじり。結構楽しいから。」
そんなことを言われたら、断れなかった。幸村くんとは意外と強引な人かもしれない。
「まず腐葉土をすきこんで、こっちのポットの苗を大体20センチくらいの感覚で植えて行くんだ。」
「ジャージで来れば良かった。」
濡れた土のいい匂いがした。小さな花壇でも、耕そうとおもえば結構汗が滲んで、夢中になってしまった。
「幸村くんの言う通りかも。」
「うん?」
「土いじり。結構楽しい。」
「ふふ…それは良かった。」
「そういうの好きなの?」
「ガーデニングかい? 好きだよ。家の庭にも色々植えてる。ダリアとか、グラジオラスとか、コスモスとか。」
写真を見るかい?と携帯を出してくるので甘えて見せてもらう。どれもとても綺麗で、元気に咲いている。そのままの感想を述べると、彼は嬉しそうに笑った。
「うれしいな。部の連中には中々こんな話できないから。」
「幸村くん、テニス部だっけ。」
「そうだよ、言ってたっけ。」
「ううん、そのパワーリスト、立海テニス部の象徴でしょう。」
ああ、これか、と、幸村くんは少し泥の付いた手を太陽に透かせた。
「君は何の部活に入ってるの?」
答えに困って口籠ると、彼は隣に座った。
「俺、困らせるような質問したかな?」
「自意識過剰かもしれないけど…私の噂聞いたことない?」
「俺、色々と体に問題があって、学校にはしばらく来れていなかったんだ。だから、君が言う噂なんてものは知らない。第一そんな噂があるとしても、噂としてじゃなく、君の口から何があったのかを聞きたいな。」
つらっと述べられた事実に、学校で見た覚えがないことの真相と、あの時絵の向こうに見えたものが香った。
「…話さないよ、面白くないんだもん。」
***