少しだけ昔の話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
幸村くんの第一印象は、とてもきれいな男の子だな、っていうこと。陽だまりの中、急に私の目の前に現れた、美しい男の子。絵のモチーフには十分すぎる。どんな下手くそが描いたって酷いことにはならないだろう。
心の中でまで強がりをいう気はない。
私は今の孤独な生活に疲れていた。鉛筆を夢中で研いでいたのだって、仲良しペアが組まれた小さな教室で、一人でいることがキツかったからだ。孤独をやり過ごすには、目の前のことに集中すること、それに限る。
美しく儚げな男の子は、自己紹介をして手を差し伸べてきた。
腫れ物扱い、あるいは空気、みたいな扱いをされ続けた私にとっては、なんだか夢を見ているような光景だった。こんな子学校に居たっけ?とか、彼の告げる名前がどこかで聞いたことがあるような…とか。伸ばされた手と交わす握手が、目に見えるよりもずっと力強くて、ようやく現実に引き戻された。
手首に黒いパワーリスト。ってことは、きっとテニス部の誰かなんだ。その時はその程度の認識だった。
深呼吸をして、白い画用紙を軽く撫でる。
私は目が良い。ーー視力が良いとは別の意味で。観察眼が私の全てだ。色の薄い鉛筆で、彼の纏う空気を画面に落とし込もうとする。端正な顔立ちの奥に潜む、闇や強さが、じわじわと立ち上る。
孤独は、この目のせいだ。
昔から変わりもの扱いされることが多かった。学校が切り替わる瞬間、次の世界では違う誰かになれたらどんなにいいかと思って、演劇部に入ろうとした。
はじめて渡された脚本をつぶさに観察して、人物を指先から全身で、自分を忘れるほどに表現したら、評価と批判が同時に降ってきた。
私はなんでも、いつも、やり過ぎてしまう。
もちろん卒業を控えた3年生に泥を塗るつもりはなかった。だけど結果としてはそうなってしまった。同じ部活の子達は勿論、自分を取り巻く空気が重たく澱んでしまった。予選の役はやり切ったけれど、それ以上その場に居られるほど、私の気持ちは強くなかった。
…私が抜けた後、演劇部の大会はあっさり敗退したらしい。
才能は時にギフトと呼ばれるけれど、不用意に人に疎まれる重荷にもなる。
モチーフとしての彼、幸村精市、くんは、とても素晴らしかった。見つめるとまっすぐ視線が返ってくる。山奥の澄んだ泉でも見ているようで、彼の凛とした力強さにすこし足がすくむ。彼もきっと何か常人にはとても抱えていられないほどのギフトを持っているのだろう。そして自分の才能に食い潰されることなく、それを飼い慣らしているのだろう。
ーー私も、そうなれたら。
彼の静かな強さの輪郭を掴みたくて、夢中で筆を動かした。周りの音が消えて行く、幸村くん以外のなにもかもが消えて行く。
鳴り響く終礼のチャイムでようやく我に帰った。真っ白な空間が徐々に色付くように、教室のざわめきが戻ってくる。
ーーーー私は、また、やり過ぎてしまったのだ。
***
心の中でまで強がりをいう気はない。
私は今の孤独な生活に疲れていた。鉛筆を夢中で研いでいたのだって、仲良しペアが組まれた小さな教室で、一人でいることがキツかったからだ。孤独をやり過ごすには、目の前のことに集中すること、それに限る。
美しく儚げな男の子は、自己紹介をして手を差し伸べてきた。
腫れ物扱い、あるいは空気、みたいな扱いをされ続けた私にとっては、なんだか夢を見ているような光景だった。こんな子学校に居たっけ?とか、彼の告げる名前がどこかで聞いたことがあるような…とか。伸ばされた手と交わす握手が、目に見えるよりもずっと力強くて、ようやく現実に引き戻された。
手首に黒いパワーリスト。ってことは、きっとテニス部の誰かなんだ。その時はその程度の認識だった。
深呼吸をして、白い画用紙を軽く撫でる。
私は目が良い。ーー視力が良いとは別の意味で。観察眼が私の全てだ。色の薄い鉛筆で、彼の纏う空気を画面に落とし込もうとする。端正な顔立ちの奥に潜む、闇や強さが、じわじわと立ち上る。
孤独は、この目のせいだ。
昔から変わりもの扱いされることが多かった。学校が切り替わる瞬間、次の世界では違う誰かになれたらどんなにいいかと思って、演劇部に入ろうとした。
はじめて渡された脚本をつぶさに観察して、人物を指先から全身で、自分を忘れるほどに表現したら、評価と批判が同時に降ってきた。
私はなんでも、いつも、やり過ぎてしまう。
もちろん卒業を控えた3年生に泥を塗るつもりはなかった。だけど結果としてはそうなってしまった。同じ部活の子達は勿論、自分を取り巻く空気が重たく澱んでしまった。予選の役はやり切ったけれど、それ以上その場に居られるほど、私の気持ちは強くなかった。
…私が抜けた後、演劇部の大会はあっさり敗退したらしい。
才能は時にギフトと呼ばれるけれど、不用意に人に疎まれる重荷にもなる。
モチーフとしての彼、幸村精市、くんは、とても素晴らしかった。見つめるとまっすぐ視線が返ってくる。山奥の澄んだ泉でも見ているようで、彼の凛とした力強さにすこし足がすくむ。彼もきっと何か常人にはとても抱えていられないほどのギフトを持っているのだろう。そして自分の才能に食い潰されることなく、それを飼い慣らしているのだろう。
ーー私も、そうなれたら。
彼の静かな強さの輪郭を掴みたくて、夢中で筆を動かした。周りの音が消えて行く、幸村くん以外のなにもかもが消えて行く。
鳴り響く終礼のチャイムでようやく我に帰った。真っ白な空間が徐々に色付くように、教室のざわめきが戻ってくる。
ーーーー私は、また、やり過ぎてしまったのだ。
***