少しだけ昔の話
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彼女と初めて話したのは、ある日の美術の授業のことだった。
検査入院を何度か繰り返していて、その日も病院に行ってから、遅めの登校。遅れて入った教室では、嫌でもみんなの視線を集める。
黒板に書かれた文字から察するに、今日の課題は友達の肖像。水彩。女子も男子も、仲がいいもの同士でペアを組み終わった後のようだ。ぐるりとあたりを見回して、隅の方、全くこちらを見ずに、鉛筆を研いでいる女子が目に入った。
「いいかな。」
前に座ると、彼女はようやく目線を上げた。何種類もの鉛筆が、芯だけを長く出して研がれている。俺も美術を少しは齧っているから分かる。絵を描くための研ぎ方だ。
「ずいぶん本格的だね、絵、習ってたのかい?」
「まぁ…」
「もしかして俺、お邪魔だったかな?」
「ううん、危なく自画像を描かなきゃいけないとこだったの。友達の肖像の課題なのに。」
彼女は少し苦そうに笑った。
「だから、助かった。…課題の、『友達の』ってのは置いとくとしても。」
「俺は幸村。幸村精市だよ。」
「ゆきむらくん…?」
舌足らずに繰り返すその子が可愛くて笑ってしまう。外国語でも聞いたみたいなリアクションだ。
「君は?」
「私は塩谷、塩谷かもめ」
「よろしく、塩谷。これで僕ら『友達』だね。」
手を伸ばすと、さっきの無理した笑顔とは違う、ふわりと儚げな微笑みが返ってきた。軽い握手で、胸が不意に高鳴った気がした。
***
検査入院を何度か繰り返していて、その日も病院に行ってから、遅めの登校。遅れて入った教室では、嫌でもみんなの視線を集める。
黒板に書かれた文字から察するに、今日の課題は友達の肖像。水彩。女子も男子も、仲がいいもの同士でペアを組み終わった後のようだ。ぐるりとあたりを見回して、隅の方、全くこちらを見ずに、鉛筆を研いでいる女子が目に入った。
「いいかな。」
前に座ると、彼女はようやく目線を上げた。何種類もの鉛筆が、芯だけを長く出して研がれている。俺も美術を少しは齧っているから分かる。絵を描くための研ぎ方だ。
「ずいぶん本格的だね、絵、習ってたのかい?」
「まぁ…」
「もしかして俺、お邪魔だったかな?」
「ううん、危なく自画像を描かなきゃいけないとこだったの。友達の肖像の課題なのに。」
彼女は少し苦そうに笑った。
「だから、助かった。…課題の、『友達の』ってのは置いとくとしても。」
「俺は幸村。幸村精市だよ。」
「ゆきむらくん…?」
舌足らずに繰り返すその子が可愛くて笑ってしまう。外国語でも聞いたみたいなリアクションだ。
「君は?」
「私は塩谷、塩谷かもめ」
「よろしく、塩谷。これで僕ら『友達』だね。」
手を伸ばすと、さっきの無理した笑顔とは違う、ふわりと儚げな微笑みが返ってきた。軽い握手で、胸が不意に高鳴った気がした。
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