屋上、或いは透明な壁の向こう
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相変わらず教室では話さない。目すら合わない。だが、屋上で一緒に過ごすことが日課になってきた。言葉は少なめ、遊びは多め。初めてやった日より大げさなシャボン玉、ふざけて持ってきたジェンガ、コイン落としの4目並べ、ポケットサイズのオセロ。ただ隣り合って横になるだけの日もある。
こんな名前のつかない関係が、いつまでも続くような気がした。
ーーー3時間目のあたりから、重たげな黒い雲が空に見え始め、4時間目には空がゴロゴロと唸った。間もなくしとしとと雨音が、やがてだんだんと大袈裟にグラウンドを叩きつける。今日の練習はどうなるのか…と、そんなことも頭をよぎる。湿気を帯びた空気が体にまとわり付いて、どことなく体が重い。
そんなふうに気もそぞろに授業を受けていたら、4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。流石にこんな日に屋上には行けない。アイツはーーー塩谷は、一体どこで過ごして居るのだろう。
「お、教室で食うの?珍しっ。」
「ああ、まあ、そんなとこじゃ。」
突っかかってくる丸井に答えつつも、塩谷の姿が見当たらなくてあたりを見回すのがやめられない。
「いつもどこに居んだよ、仁王。」
「どっかその辺じゃよ、その辺。」
「その辺って…もう食い終わってるし。おい、ちょっ、どこ行くんだよ。」
「トイレじゃ、トイレ。」
昼飯を早々に食い終わり、あてもなく学校を彷徨う。どこかに居るはずなのに。
不意に、聞き慣れた笑い声が聞こえた。この声は、ダブルスの相棒、柳生。それと、
「…まったく貴女はそんな冗談ばかり。」
「柳生くんだって大概でしょ。真面目なフリして。」
「私はいつでも真面目ですよ。」
「またまた。」
他でもない、探していた彼女の声。
声が聞こえるのは、図書室。
「柳くんも何か言ってくださいよ。」
「そうだな…しかし、塩谷の言い方は粗暴だが、的を射ている。」
「そうでしょ。私は二人みたいに賢くは無いけど、勘はいいのよ。」
参謀までいると来てる。いつも言葉少ない彼女が、楽しげに話しているのがどうしようもなく苦しかった。…自分だけに心を開いてくれていると思っていた。何の約束もしていないのに、裏切られたような気持ちだ。
動揺する気持ちを抱えたまま、来た道を戻る。
速足で戻れば戻るほど、今見たものが無かったことになるような気がして。
何の騒ぎか、さっきまで誰もいなかった廊下には人集りが出来ていた。その人混みの中心人物が、振り返って微笑む。
「やあ、仁王。」
「…幸村。」
戻ってきたのか、とか。体調はもういいのか、とか、色々言うべきことが頭をぐるぐると巡るが、乾いた喉からそこから先は出てこない。
ふと、幸村の顔色が変わった。
「塩谷。」
振り返ると、人混みを掻い潜って、塩谷が教室に入るところだった。
「あ、幸村くん。…おかえりなさい。」
こともなげにそう一言告げて、そのまま自分の席へと戻っていく。その僅かなやりとりが、なぜだかさっきよりも強く自分の胸を締め付けた。
***