消毒液のにおい
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やっと復帰ができるかと思った矢先に、幸村は再び倒れた。
救急車を呼んだりして、結構な騒ぎになった後、手術をすることになったと聞かされた。
手術前にせめても、と、テニス部のレギュラーメンバー全員で見舞いに出向いた、その後で。
「仁王。少し残ってくれるかな。」
まさかの指名が入ったのだった。
「なんじゃ。」
「ふふ、分からないとは言わせないよ。」
「分からんのう、何のことだかさっぱりじゃ。」
「…塩谷、かもめ。」
思わずぎくりと肩が揺れる。…予想がついてはいたものの。
「仲が良いみたいだね。」
「それはどうかの。」
「見ればわかるよ。」
「想像に任せる。」
部長である彼の威圧感はまるで病人であることを感じさせない。コート上に向かい合った時のような緊張が背筋を走った。
屋上の共謀をやめてから、塩谷とは教室でも普通に話すようになっていた。テニス部のファンの過激な女子からは、反感を買ったようだが、彼女なりの『防犯』でコトは大きくならずに済んでいた。ロッカーを勝手に開けたらクラッカーがはじける仕掛けだったり、下駄箱にイタズラをしようものなら飛び出してくる虫のオモチャ。
あとは、まあ、下らんこのは止しんしゃいと、誰かからのご忠告。
幸村が見るまでもなく、学校中で噂になり始めていた。
「単刀直入に言うよ。俺、彼女のことが好きなんだ。」
「…俺に告白してどうするんじゃ?」
「君も彼女が好きなんだろう?」
沈黙を肯定と受け取ったのか、神の子は目だけ笑っていない笑顔のまま、視線を窓の外に移した。
「病人が告白したんじゃ、あまりにも狡いだろう。…俺はちゃんと彼女に俺を好きになって貰いたいしね。」
確かに、まじめな塩谷のことだ。それが少しでも闘病の支えになると縋られたら、迷いもせず自分を差し出すだろう。…確信した所で身震いがした。圧倒的に不利に思えた。
「本当は、この、経過観察の期間に告白するつもりだったんだ。関東大会には彼女に恋人として応援に来て欲しかった…それが、このザマだよ。…告白もできないどころか、関東大会にすら…。」
「幸村…。」
重たくなった雰囲気を振り払うように明るい声を出して幸村は続けた。…言葉尻は刺々しいまま。
「それにしても…いつの間に仲良くなったんだい?電話では仁王のことそれほど聞かなかったよ。」
「電話?」
「時々ね。入院とか、自宅療養が長引くと、人と話す機会がなくて、気が滅入るんだ。お見舞いも今日みたいにテニス部のメンバーが殆どだしね。…彼女はそれを察してくれたみたいで、時々、どうでもいいようなかけがえのないことを、俺と電話で話してくれる。テニスも病気も関係ない、日々のことを。…仁王も知ってるだろう? 彼女、とてもいい子なんだ。」
知ってる。もちろん知っている。まだ日は浅いとしても。積み重ねた日々をチラつかされて、嫉妬の炎が揺れた。これは挑発だ。乗った方が負ける類の。
「譲る気はないよ。」
「…さっさと治して奪いに来んと、俺がもらっちまうぜよ。」
病室を後にした。悔しさと苛立ちと焦る気持ちがない混ぜになった、めちゃくちゃな気持ちだった。自分らしくもない。
***
救急車を呼んだりして、結構な騒ぎになった後、手術をすることになったと聞かされた。
手術前にせめても、と、テニス部のレギュラーメンバー全員で見舞いに出向いた、その後で。
「仁王。少し残ってくれるかな。」
まさかの指名が入ったのだった。
「なんじゃ。」
「ふふ、分からないとは言わせないよ。」
「分からんのう、何のことだかさっぱりじゃ。」
「…塩谷、かもめ。」
思わずぎくりと肩が揺れる。…予想がついてはいたものの。
「仲が良いみたいだね。」
「それはどうかの。」
「見ればわかるよ。」
「想像に任せる。」
部長である彼の威圧感はまるで病人であることを感じさせない。コート上に向かい合った時のような緊張が背筋を走った。
屋上の共謀をやめてから、塩谷とは教室でも普通に話すようになっていた。テニス部のファンの過激な女子からは、反感を買ったようだが、彼女なりの『防犯』でコトは大きくならずに済んでいた。ロッカーを勝手に開けたらクラッカーがはじける仕掛けだったり、下駄箱にイタズラをしようものなら飛び出してくる虫のオモチャ。
あとは、まあ、下らんこのは止しんしゃいと、誰かからのご忠告。
幸村が見るまでもなく、学校中で噂になり始めていた。
「単刀直入に言うよ。俺、彼女のことが好きなんだ。」
「…俺に告白してどうするんじゃ?」
「君も彼女が好きなんだろう?」
沈黙を肯定と受け取ったのか、神の子は目だけ笑っていない笑顔のまま、視線を窓の外に移した。
「病人が告白したんじゃ、あまりにも狡いだろう。…俺はちゃんと彼女に俺を好きになって貰いたいしね。」
確かに、まじめな塩谷のことだ。それが少しでも闘病の支えになると縋られたら、迷いもせず自分を差し出すだろう。…確信した所で身震いがした。圧倒的に不利に思えた。
「本当は、この、経過観察の期間に告白するつもりだったんだ。関東大会には彼女に恋人として応援に来て欲しかった…それが、このザマだよ。…告白もできないどころか、関東大会にすら…。」
「幸村…。」
重たくなった雰囲気を振り払うように明るい声を出して幸村は続けた。…言葉尻は刺々しいまま。
「それにしても…いつの間に仲良くなったんだい?電話では仁王のことそれほど聞かなかったよ。」
「電話?」
「時々ね。入院とか、自宅療養が長引くと、人と話す機会がなくて、気が滅入るんだ。お見舞いも今日みたいにテニス部のメンバーが殆どだしね。…彼女はそれを察してくれたみたいで、時々、どうでもいいようなかけがえのないことを、俺と電話で話してくれる。テニスも病気も関係ない、日々のことを。…仁王も知ってるだろう? 彼女、とてもいい子なんだ。」
知ってる。もちろん知っている。まだ日は浅いとしても。積み重ねた日々をチラつかされて、嫉妬の炎が揺れた。これは挑発だ。乗った方が負ける類の。
「譲る気はないよ。」
「…さっさと治して奪いに来んと、俺がもらっちまうぜよ。」
病室を後にした。悔しさと苛立ちと焦る気持ちがない混ぜになった、めちゃくちゃな気持ちだった。自分らしくもない。
***