消毒液のにおい
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
戦っていくことを決めたから。
柳生くんみたいに紳士的に、柳くんみたいに賢く、幸村くんみたいに覇気をもって、仁王くんみたいにしなやかに、飄々と、遊びをこめて。
「塩谷。すこし中庭で話さない?」
「…いいけど。」
下駄箱で自分の靴を出す。…上に乗せておいたリアルなタランチュラのおもちゃを退かしてから。
「…なんだい、それ。」
「防犯。」
中庭の、ずっと前に幸村くんと植えた花壇。あの時はまだ花もつけない苗だったのに、すっかり根を伸ばして大輪をつけている。
「直接話すのは久しぶりだね。」
「そうだね。言って電話で話したのも結構前だけど。」
「変わりない?」
「うん。」
「…ふふ。」
「何?」
「っふふ…何か緊張してるの?」
「えっ…いや、普段どういうふうに話してたか思い出せなくなって。」
幸村くんは目の端に涙を溜めて笑った。笑われすぎて少し恥ずかしくなる。
「電話で話す時のきみ、すごくかわいいのに。ちょっと子供っぽくて。なんだか今のきみとは全然違うよ。」
「…だってあれは、いつも大体寝る前に電話することになるから。」
「寝る前はああなのかい?」
「眠い時は呂律が回らなくなるもんでしょ!」
「呂律っていうか…ふふ、ははは…」
一頻り笑った後で、彼は花壇に目を移した。
「ありがとう。」
「何で?」
「君が世話してくれてるんだろう?」
「…一緒に植えた責任があるから。」
「一度、真田にここの花を預けてくれたよね。嬉しかった。…きみが持ってきてくれたらもっと嬉しかったけど。」
「だってそれは、病院の中の幸村くんを見ない方がいいと思って。」
「どういう意味だい?」
「私に病人扱いされたくないでしょ。」
「…俺、そんな話も君にしたっけ。」
「あ、ごめん、勘違いだったら。そうかなって思っただけ。」
部活に行けば部長、病院に行けば患者。ずっとその役回りで、疲れているんじゃないかと思った。だから花が咲いた時、ずいぶん迷ったけど、結局は真田くんに託したのだ。
「…君は何でもお見通しだね。」
「別に何でも、って訳じゃないけど。」
「初めて絵に描いてもらった時から不思議だったよ。なんできみには全部見えるんだろうって。」
「…見えなければ良かったと思う時も多いよ。」
「でも、現に俺はきみのその目に救われたよ。見抜いてくれるその目に。…きっと精神力が貧しい人には耐えられないんじゃないかな、きみのその目に、自分の本質を突きつけられるのは。」
「…。」
「塩谷、俺は…あ、…。」
幸村くんが急に胸を押さえて蹲った。
「…幸村くん?…っ幸村くん!」
こちらの声が届かないみたいだ。蹲った姿勢のまま倒れる。呼吸が苦しそうだ。このままじゃ…
「…誰か、誰か救急車を!」
***