屋上、或いは透明な壁の向こう
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「知ってるも何も、ちょっとした有名人だろぃ。同じクラスだし。」
「有名?」
クラスメイトの丸井は女子たちともある程度仲が良い様子だし、彼女のことを何か知っているだろうと声を掛けたら、ガムを膨らませながら予想外の返事をした。
「あんまりいい噂は聞かねぇけどな。奇人、変人、一匹狼。」
「ほう…。」
「ていうか今まで気づかなかったのかよ。明らかハブ…浮いてるだろぃ。」
声を潜める丸井が、視線を窓際に向ける。噂の当人はくしゃみをする事もなく、イヤホンを耳につけ、背筋をピンと伸ばして、分厚い本を読んでいる。
「てか、そもそもの原因は俺もよく知らねぇんだった。お前知ってる?」
隣で噂話をしていた女子に水を向ける。丸井はクラスでも人気がある方だ。声をかけられた女子は、頬を赤らめながらもペラペラと話し始めた。
「わ、私も噂でしか知らないんだけど、部活動荒らしだったらしいよ〜」
「部活動荒らし?」
「1年の頃にね、最初は彼女、演劇部に入ってたらしいの。だけど大きな大会でやる劇で、主役のオーディションを3年からもぎ取ったらしくて。それから公演までに何度も嫌がらせをされて…主役を抜擢された予選を終えてから、結局退部したみたい。」
「何だそれ、それじゃ塩谷悪くないじゃん。」
「まぁね…その次の事件は、結構有名でしょ?『幸村精市事件』。」
「何じゃそれ。」
思いがけず出てきた部長の名前に思わずツッコミを入れる。
「ほら、美術の課題。友達の肖像を描くってのがあっただろぃ、あれで幸村くんの描かれた絵が賞とったの、覚えてない?」
「あー…。」
薄ぼんやりと、夕日の中少し寂しそうに微笑む幸村の水彩画を思い出す。そういえば優秀賞だかでポスターになったりして結構騒がれていた記憶がある。
「それで、美術部にスカウトされていたんだけど…。」
「入らなかったのか?」
「ううん、当人も入る気だったみたいなんだけどね、そこの部員に、ちょっと過激な『幸村くんファン』が居たみたいで。」
「また嫌がらせか?」
「うーん…そこまで明確には…でも、描かれた側の幸村くんは、塩谷さんのこと気に入っちゃったのか、よく声を掛けるようになって。嫉妬の的。」
「何だよ、塩谷全然悪くねぇじゃん。なんか気の毒。」
「最後の極め付けは、新聞部。人が足りないとかで勧誘されたらしいんだけど、彼女の記事が結構ユニークで。今の学校新聞ってネットでも一部配信されているから、他校からも注目されて。」
「へぇ。それが何で極め付けに?」
「『跡部様』の目に止まったの。」
「跡部?! あの氷帝の跡部?」
「そうそう。テニス部って取材を受けることがあるでしょう? でも大人の記者だと勝手に話を作られることが多いみたいで…合同合宿のルポ?っていうのかな。同世代の目線で文章が書ける人を探してたのね。」
「それで、塩谷は?」
「さぁ? 引き受けたり受けなかったりかな。でも立海新聞部の反感は間違いなく買ったよね。他校のために記事を書くわけだし。」
「世知辛いのう。」
「…って、かくして、帰宅部一匹狼モンスターが完成したって訳。…っていっても、今は別に誰かに攻撃されてたりはしないよ? 彼女が一人で居たがるだけ。」
「…塩谷が、望んで、一人で。」
***