動き始める物語
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「成る程な。」
「ほら、鼻ちーん、しい?」
結局事情をすべて話す羽目になった。全く関係のないよその学校の人に。いやよその学校の人だから逆に話せた訳だけど。丸メガネくんの差し出す箱ティッシュを受取り鼻をかむ。
「ずびばせん…外部の、何の関係もないあなた達にこんなこと…。」
「ええてええて。困った時はお互い様やんな?」
「…俺様のせいじゃ無かっただろ。」
「ああ、まあ、その点については安心したわ。」
「あの…だから、その…今日はお断りに来たんです。」
「あぁん?」
「他校合同誌のお話…」
「それは、お前が他人の反感を買いたくないがための決断じゃないのか?」
「だって…」
「この俺様が目に留めて直々に依頼を掛けたんだ。それなりの理由でなきゃこの俺様が納得しねぇ。」
「アホかお前、傷付いとる女の子に何ちゅう物言いや。」
「こういうことはオブラートに包んだってしょうがねぇ。俺様がチャンスをやると言ってるんだ。精々足掻け。」
「…なぁ、こういう言い草しかでけへん奴やねんけど、お嬢さんのこと気にかけてんねん、分かったって。」
丸メガネ君がこっそりと耳打ちする。私は深呼吸して、涙を払った。
「…わかった。やってみます。」
「いい返事だ。」
これが、私と氷帝学園の最初の取引。
「…ねぇ、丸メガネくん、連絡先教えてくれませんか。」
「丸メガネくんて俺か?…俺は忍足侑士や。タメでええで。…なんやぁ、意外と積極的やな自分。」
「跡部サマに虐められた時に相談できる人が欲しいの。保険、セカンドオピニオン。」
「…はは、そういうことか。お嬢さんも中々やるなぁ。」
「塩谷かもめです。」
「塩谷ちゃんか。」
忍足くんは私の頭を軽く撫でた。優しさにちょっと涙腺が緩む。
「テニスやってる子達って、皆根が優しいよね。」
「んー、ま、本当の厳しさを知ってる人間が、他人にも優しくなれるっちゅうとこかな。本気の試合じゃ下らん足の引っ張りあいしてる場合やないねん。自分を高めるために時間使わななぁ…」
忍足くんの大人っぽい横顔が眩しかった。その言葉に、自分の関係性を当てはめてみる。
氷帝学園の美しいテニスコートに出ると、男の子たちがキラキラの汗を流しながらテニスに励んでいた。お互いを高め合う、そんな言葉が相応しいような。
私が友情だって思い込んでしがみついている関係は、ーーー実は、正しくないのかも。
***