動き始める物語
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ーーー寝付きの悪い、浅い眠りの中、途切れ途切れに昔の夢を見た。
『塩谷さん、部活辞めちゃったんでしょ?新聞部入らない? ユーレイ部員でいいから!』
新聞部に入ったのはこんな経緯だった。彼女の軽口に誘われて、でも居場所のない私は、その軽口に救われて。
『全国高校生合同の記事コンクールがあるの!それに出て名を上げて、注目されるのが私の夢!』
はじめのうちの関係は良好だったと思う。私は文章を書くことが嫌いじゃなかったし、記事のための写真を撮るのも新鮮で面白かった。主にアシスタントとして、彼女の手伝いをしながら記事を一緒に作っていた。誰かと一緒に何かをできるのは、私としては得難い経験だった。
でも、いつからか、段々歯車は噛み合わなくなっていった。
書く記事の割合は彼女が投げ出すものが増え、写真についても塩谷さんの好きにして、と答える。自分の意見はないのかと問えば、返ってきたセリフはこうだ。
『だって塩谷さん一人で書いた記事のほうが出来がいいんだもん。』
私の観察眼のギフトが、ここでも魔の手を伸ばし始めたのだ。だんだん彼女は部活に来なくなり、やりかけた仕事を途中で投げ出すことは私にはできなくて、結局一緒に着手した新聞コンクールの記事は、一人で仕上げる羽目になった。コンクールとしては佳作程度だったけれど、皮肉にも、その新聞は注目を浴びたのだ。ある一人の人間に。
「アーン? 共著と聞いていたが?」
「あー…事情があって、途中から一人で仕上げたんで…でも、彼女が書いた文も残ってるから、名義まで取るのは、忍びなくて…」
「同じ部活の人間だろ?引っ張ってでも連れてこいよ。」
「…顔も見たくない、って言われた相手を?引っ張ってでも?」
頭では、シニカルな言い訳調に伝えたつもりだったけれど、体が言うことを聞かなかった。唇が震えて、勝手に涙が溢れる。ドアが開いた。
「なぁ、跡部。今度の練習試合の件なんやけど…って、おい!」
「…私、帰ります。すみません。」
入ってきた丸メガネの男の子とすれ違うように出ようとしたが、瞬間腕を掴まれた。初対面の人間の前で泣くなんて、公開処刑もいいとこだ。
「アカンアカンアカン、跡部お前何他校のお嬢さん泣かしとんねん!」
「あぁ?!俺じゃねぇ!」
「すみません、離してください、」
「いや放っとけんて、跡部何したんや!」
「だから俺じゃねぇって言ってるだろうが!」
「…うぅ…」
居た堪れなくて次から次に涙が出てきて、やがて子供のように泣いてしまった。
***