このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

短編 文スト

紅茶の香りに誘われ彼女に近寄るとテーブルにはティーセットと小さな皿によそられた果実ジャムがあった。

「貴方がロシアンティーとは珍しい」
「うん、初めて飲んだよ。フョードルの故郷のものを飲んでみたいなって思って」
「成程。それでどうですか?初めてのロシアンティーの味は」
「うーん・・・ジャムの味が強くてよく分からないかな」

苦笑する彼女の手元の紅茶を見る。
恐らく普通通りの濃さであろうそれを見て彼女の感想の理由が分かった。

「紅茶はちゃんと濃くしましたか?」
「え?ううん、茶葉の缶に書いてある通りにやったけど・・・」
「ジャムが強すぎてしまったのはそのせいでしょうね。ロシアンティーの時の紅茶は普通よりも濃く作るものですから」
「えぇ!?そうだったんだ・・・。ジャムを紅茶に入れるのは邪道で、舐めてから紅茶を飲むってことしか調べなかった」

肩を落として分かりやすく落ち込む彼女を見兼ねてティーポットを手に取る。

「フョードル?」
「僕が淹れてあげます。茶葉はアッサムで構いませんか?」
「いいの!?うん、お任せするよ!」

そっと紅茶缶を開けティーメジャーを使い茶葉をティーポットに入れる。
その中に沸騰させておいた熱湯を勢いよく注ぎ終えると同時にひっくり返した砂時計の砂がゆっくりと落ちていく。
砂時計の砂が落ちたことを確認してから茶こしを使いながら温めておいたティーカップに注げば彼女はわぁ、と声を漏らした。

「私が淹れたのとは全然違うね」
「これならジャムの甘さに負けないくらい紅茶の味を感じられると思いますよ」
「それじゃあ、いただきます」

スプーンで掬ったジャムを口に含んだ後、おずおずと紅茶を飲む。
すると彼女の顔が見る見るうちに笑顔になった。

「美味しい〜!!凄いよ、フョードル!!」
「それは良かったです。僕も頂いても?」
「もちろん!」

彼女と同じようにしてジャムを口に含み紅茶を飲む。
口の中でジャムの甘みと濃い紅茶の味が広がっていく。

「ね?美味しいでしょう?」

ニコニコと本当に嬉しそうに笑う彼女に少しの悪戯心が湧いた。

「少し、甘みが足りませんね」
「え?フョードルってそんなに甘党だったっけ?」
「えぇ。ですから」

彼女に顔を近付けて少し半開きのその唇にそっと口付ける。

「これで丁度良い味になりました」
「な、な・・・!!」

驚いて口をパクパクさせる彼女にご馳走様でしたと言えば、途端に顔を真っ赤に染め上げる。
甘い甘いジャムより貴方の唇のほうがずっと甘く僕を魅了した。
5/18ページ
スキ