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短編 文スト

いつだったか彼に教わったことがあった。

もし、仕事でお酒を飲む機会が会った際に気を付けるべきことを指南してもらった時のことだ。教わった事のひとつに、ポートワインというお酒のことがあった。ポートワインの持つと言われるカクテル言葉は「愛の告白」つまり男が意中の女にポートワインを差し出すことは「告白」の意味になり、そして差し出された女がそれを飲めば「告白を受け入れた」という意味になるのだと。

教わった時、勧められたからといって不用心になんでも受け取るなよ、と釘を刺されたのをよく覚えている。1歩間違えば相手に気があると勘違いさせてしまうことになるからだ。

何故、私がこの話を思い出しているかというと、まさに今この時、目の前にそのポートワインが置かれているからに他ならない。それも、その意味を教えてくれた張本人の手で。

「意味、覚えてるか?」

呆然とし、目の前に置かれたワイングラスから目を離せない私に彼の静かな問いが掛けられる。

「まぁ、手前が俺から教わったことを忘れる訳ねぇか」
「中原幹部、あの、これは・・・」
「冗談なんかじゃねぇからな。俺は本気だ」

本気ですか?と聞こうとした私を遮り、強い口調と真っ直ぐな瞳が向けられる。

「さぁ、どうする?教えた筈だぜ。その気がねぇなら飲むなってな」

吸い込まれそうな青い瞳に見つめられ思わず息を呑む。私の気持ちなんて全部お見通しのクセに、意地悪な人だ。ふぅ、と息をひとつ吐いた後、静かにグラスを手に取り口元に運ぶ。震えそうになる手を必死に抑えながら1口、口に含みそのままゴクリと飲み込めば、喉から胸に温かい温度が広がっていく。

「・・・美味いか?」
「味なんて分かるわけないじゃないですか・・・!」
「ハッ。だろうな。ありがとうな、受け入れてくれて」
「わ。私こそ!・・・ありがとうございます」

ワインのせいだろうか、さっきから心臓の音バクバクと煩くて仕方ない。そんな私の頬に彼の手が添えられる。

「これで、手前は俺の女だ」

囁くような低い声に体がゾクリと震え。甘い熱に頭がクラクラした。
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