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短編 文スト


ねぇ、と呼ばれ振り返った瞬間に頭に感じた僅かな重みと共に視界が白く遮られる。不思議に思い手を頭に伸ばし触れればサラリとした感触がしたそれは真っ白なベールのようだった。

「うん、良いね。やっぱり似合う」
「突然どうしたの?」
「教会の前を通りがかったら偶然結婚式をやっているのが見えてね。白いベールを被った花嫁が綺麗だったから君にも似合うと思って」
「それでわざわざ買ってきたの?」
「うん。僕がそれを付けた君が見たかったから」

私の頬に手を伸ばしてじっと見つめながら、少し照れたように彼は笑った。

「知ってる?花嫁の白いベールにはね、【悪い物から身を守る】役割があるそうだよ」
「へぇ、そうなんだ。綺麗なだけじゃないんだね」
「それと、新郎が花嫁のベールを上げることは【二人を隔てる壁を取り払う】という意味合いもあるんだって。こんな風にね」

私の顔を隠していたベールを上げられると鼻が触れる程の距離にニコライの顔が見えた。真っ直ぐに私を見つめる瞳はキラキラと輝いていて、なんだか擽ったい。

「ねぇ、誓ってくれるかい?」
「誓う・・・?」
「僕との永遠を。今すぐという訳ではないけれど、僕には君以外居ないという確信はあるから」

左頬に彼の大きな手が添えられる。その手の温かさがじんわりと伝わってくる。

「誓うよ。私にも、ニコライ以外居ないから」
「ありがとう。・・・・・・病める時も健やかなる時も、どんな事があろうとも、生涯変わらずに君だけを愛すると誓うよ。・・・だから君も、僕に全てを捧げて欲しい」
「・・・はい」

吸い込まれそうな瞳が少しずつ近付いてきて目を閉じれば唇には柔らかな感触。その後聞こえたのは嬉しそうな彼の笑い声。ふわりと揺れる白いベールと彼の外套。

「まるで本当の結婚式のようだね」
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