2人の幸福論
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高専を卒業してからもう何年が経っただろうか。周りを取り巻く環境は大きく変わってしまったけれど私は今もこうして生きて呪術師をしている。こんな業界だ。私程度の術師なんててっきりすぐに死ぬだろうと思っていたのに随分としぶとく生きてるものだなぁと我ながら感心する。
昼下がり、任務帰りにガヤガヤと賑わう商店街を1人で歩いていると、一つの店の華やかなショーウィンドウに飾られた白いドレスに何故だか視線が向いて立ち止まる。たくさんのレースで装飾されたそれは所謂ウエディングドレスというものだった。純潔を表すその白は仕事柄いつも黒ばかり着ている私には何だか眩しいくらいに感じる。
「珍しいね、お前がこんなの見てるなんて」
いつの間にか隣に立っていた同じく黒い服を着た悟が上着のポケットに両手を入れながら同じようにショーウィンドウを見つめていた。今日はお互いに珍しく早く終わる任務だったのもあり、せっかくだから食事でもしようと待ち合わせしていたのだ。それにしても悟が待ち合わせ時間より早く来るなんて珍しい。
「綺麗なドレスだね。なに?着てみたくなっちゃった?」
「そんな訳ないでしょ。時間潰しに見てただけだよ」
茶化すような軽い言葉に呆れて溜息を吐く。悟とのこの関係も相変わらず続いている。悟の高専時代とは変わった口調と一人称、そして顔を覆う目隠しにもようやく慣れて来た。最初こそ何をふざけているんだろうと思ったけれど。
「えーいいじゃん、白。澪っていつも暗い色ばっかりだからたまには明るい色着てるのも見せてよ。ドレスが嫌なら・・・ほら、あのマネキンが着てるのとか可愛いし。ワンピースだっけ」
「は?やだよ。私に似合う訳ないでしょ白なんて」
「僕が1式買ってあげるって言っても?」
「嫌」
体の前で腕を交差させてバツを作り首を左右に振り拒否を示す。悟の性格と金銭感覚のことだ。1度買うことを許可してしまうと事ある毎に買ってきかねない。
「それよりご飯、行くんでしょ?行きたいところあるって言ってたじゃん」
「あぁ、そうそう。予約時間より少し早いけど行ってみようか。新しく出来た店なんだけどちょっと分かりにくいところにあるらしくてね。創作料理が美味しいんだって」
そう話しながら自然な動きで絡められた大きな手を軽く握り返せばグイッと強い力で引かれる。口調は柔らかくなったくせにこういう少し粗雑なところは付き合い始めた頃から変わらない。進歩といえば歩幅を合わせてくれるようになったことかな。
「んーでもさ、どうせいつかは着るんだから慣れておいてほしいんだけどなぁ」
「なにが?」
「ウエディングドレスの話。まさか忘れた訳じゃないだろ?お前のこと幸せにするって言ったこと」
「勿論覚えてるけど。ていうかそれって、プロポーズ?」
「まぁ、そんなとこ。今はまだ予約だけど。いつかお前がもっと素直になってくれたらその時はちゃんと言ってあげるよ」
「なにそれ」
その時に私が断るなんて微塵も考えていないのであろう自信満々な言葉に思わずふっと笑みが溢れる。
家族を、普通の人生を捨て"不幸になる"そう決めてこの道を選んだ。今も決意は変わらない。だからこそ術師を続けている。それでももし、何らかのキッカケで本当にいつか"幸せにする"と言っていた悟の言葉を受け入れ、私の気持ちも変化し、さっき見たような純白の衣装を見にまとって悟の隣に立てる未来が訪れたとしたら・・・悟は一体どんな顔で私を見てくれるのだろうか。"ほらね"と勝ち誇ったように笑うのだろうか。私と違って悔しいけれど悟には白のタキシードがよく似合ってしまうのだろうなぁ。
現時点でどうやら若干絆されてきてしまってきているらしい私は、私自身の不幸を願いながらも恋人関係である悟の幸せを願っているのだから随分と矛盾しているものだ。
昼下がり、任務帰りにガヤガヤと賑わう商店街を1人で歩いていると、一つの店の華やかなショーウィンドウに飾られた白いドレスに何故だか視線が向いて立ち止まる。たくさんのレースで装飾されたそれは所謂ウエディングドレスというものだった。純潔を表すその白は仕事柄いつも黒ばかり着ている私には何だか眩しいくらいに感じる。
「珍しいね、お前がこんなの見てるなんて」
いつの間にか隣に立っていた同じく黒い服を着た悟が上着のポケットに両手を入れながら同じようにショーウィンドウを見つめていた。今日はお互いに珍しく早く終わる任務だったのもあり、せっかくだから食事でもしようと待ち合わせしていたのだ。それにしても悟が待ち合わせ時間より早く来るなんて珍しい。
「綺麗なドレスだね。なに?着てみたくなっちゃった?」
「そんな訳ないでしょ。時間潰しに見てただけだよ」
茶化すような軽い言葉に呆れて溜息を吐く。悟とのこの関係も相変わらず続いている。悟の高専時代とは変わった口調と一人称、そして顔を覆う目隠しにもようやく慣れて来た。最初こそ何をふざけているんだろうと思ったけれど。
「えーいいじゃん、白。澪っていつも暗い色ばっかりだからたまには明るい色着てるのも見せてよ。ドレスが嫌なら・・・ほら、あのマネキンが着てるのとか可愛いし。ワンピースだっけ」
「は?やだよ。私に似合う訳ないでしょ白なんて」
「僕が1式買ってあげるって言っても?」
「嫌」
体の前で腕を交差させてバツを作り首を左右に振り拒否を示す。悟の性格と金銭感覚のことだ。1度買うことを許可してしまうと事ある毎に買ってきかねない。
「それよりご飯、行くんでしょ?行きたいところあるって言ってたじゃん」
「あぁ、そうそう。予約時間より少し早いけど行ってみようか。新しく出来た店なんだけどちょっと分かりにくいところにあるらしくてね。創作料理が美味しいんだって」
そう話しながら自然な動きで絡められた大きな手を軽く握り返せばグイッと強い力で引かれる。口調は柔らかくなったくせにこういう少し粗雑なところは付き合い始めた頃から変わらない。進歩といえば歩幅を合わせてくれるようになったことかな。
「んーでもさ、どうせいつかは着るんだから慣れておいてほしいんだけどなぁ」
「なにが?」
「ウエディングドレスの話。まさか忘れた訳じゃないだろ?お前のこと幸せにするって言ったこと」
「勿論覚えてるけど。ていうかそれって、プロポーズ?」
「まぁ、そんなとこ。今はまだ予約だけど。いつかお前がもっと素直になってくれたらその時はちゃんと言ってあげるよ」
「なにそれ」
その時に私が断るなんて微塵も考えていないのであろう自信満々な言葉に思わずふっと笑みが溢れる。
家族を、普通の人生を捨て"不幸になる"そう決めてこの道を選んだ。今も決意は変わらない。だからこそ術師を続けている。それでももし、何らかのキッカケで本当にいつか"幸せにする"と言っていた悟の言葉を受け入れ、私の気持ちも変化し、さっき見たような純白の衣装を見にまとって悟の隣に立てる未来が訪れたとしたら・・・悟は一体どんな顔で私を見てくれるのだろうか。"ほらね"と勝ち誇ったように笑うのだろうか。私と違って悔しいけれど悟には白のタキシードがよく似合ってしまうのだろうなぁ。
現時点でどうやら若干絆されてきてしまってきているらしい私は、私自身の不幸を願いながらも恋人関係である悟の幸せを願っているのだから随分と矛盾しているものだ。